エンタメ

『ミステリと言う勿れ』菅田将暉の言葉はなぜ刺さる? ドラマが提示する“正しい生き方”

主演級の顔ぶれが並ぶゲスト出演者

 ゲスト出演者たちが豪華なのは今さら説明するまでもないだろう。Episode1の犯人だった薮鑑造刑事役の遠藤憲一(60)、同2のバスジャックの主犯・犬堂我路役の永山瑛太(39)、同3の爆弾犯・三船三千夫役の柄本佑(35)、同4の元刑事の牛田悟郎役の小日向文世(68)。みんな主演級だ。ここまでゲストに力を入れるドラマも珍しい。これも成功要因であるのは間違いない。  ほかのゲストと比べると若いものの、episode5で放火殺人犯のカエルこと下戸陸太を演じた岡山天音(27)の演技にも目を奪われた。ご存じの方も多いだろうが、若手の演技派だ。風呂光聖子刑事を演じている伊藤沙莉(27)とは映画「ホテルローヤル」(2020年)で共演し、ラブホテルで心中する教師と女子高生を演じた。男女関係にあった訳ではなく、どちらも日常の中で追い詰められての悲しい死だった。若き実力派同士の好演が話題になった。  下戸もまた悲しかった。親から虐待を受け、小学校のクラスメイトからはいじめられ、それを教師は見過ごした。誰も救おうとしなかった。下戸は井原香音人(早乙女太一)に親を焼き殺してもらう。以後、2人で子供を虐待する親を放火で殺すが、「もう、やめる」と言った香音人を下戸は刺殺してしまう。自分がまた阻害されたと思ったからだ。香音人を自分で殺したあとも下戸は香音人と一緒にいるつもりで、彼の幻影に話し掛け続けた。よほど1人になるのが嫌だったのだろう。

殺害した犯人が判明…物語は核心へ

 やはり菅田版の久能に愛嬌があって良かった。そうでないと、下戸が哀れで見ていて辛くなったはずだ。  演出も凝っている。これも成功の理由にほかならない。一例を挙げると、下戸が香音人を殺したことを自覚した途端、2人のアジトが洒落た一室から廃墟のような寒々しい部屋に変貌する。現実に目を背け、虐待する親を焼き殺すことが正義と思い込んでいた時点での下戸には部屋も洒落れて見えていたのだ。  部屋の様変わりは原作どおりであるものの、映像は絵と違ってつくりにくい。けれど、このドラマは原作の世界観を忠実に再現した。3月7日放送のepisode6後編では、幼いころの久能が慕った美吉喜和(水川あさみ)を殺害した犯人が判明する。原作のとおりなら、息を飲む展開が待っている。 <文/高堀冬彦>
放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員
1
2
3
おすすめ記事
ハッシュタグ