エンタメ

『ミステリと言う勿れ』菅田将暉の言葉はなぜ刺さる? ドラマが提示する“正しい生き方”

家族、同僚、人間関係について掘り下げる

 Episode1の大学生殺しでは「仕事人間の家族関係の存り方」に思いをおよばせた。同3の爆弾事件では「母との向き合い方」、同4の売春女性殺しでは「同僚との信頼関係」、同5の連続放火殺人では「児童虐待問題」などを考えさせた。  見る側に謎解きの材料の大半を明かす正統派ミステリのスタイルを守りつつ、問題提起を続けてきた。一方でエンタテイメント性も重んじられ、クスリとする場面も散りばめられており、社会派ドラマのような堅苦しさはない。こんなドラマは過去にない。  久能のキャラクターも魅力。博覧強記で、まるで現代の南方熊楠だ。心理学、哲学、文学、地理学、歴史学・・・。観察力も図抜けている。それでいて能力をひけらかすようなところは一切なく、出しゃばることもない。  口調が静かであるところもいい。理論武装が完璧な久能の語勢が強かったら、嫌味になる。口にする持論も押し付けがましくなってしまう。

原作との違いについて物議をかもすも

 また、原作の久能はクールに映るものの、菅田が演じる久能は温かく愛嬌がある。これも良かったのではないか。子供からお年寄りまで見るドラマには菅田版の久能のほうが向いていると思う。脚色については議論百出だが、これは結論が永遠に出ないだろう。漫画も小説もファンは頭の中で理想の映像を思い描くからだ。ただ、ドラマが原作の持ち味を大切にしようとしているのは分かる。攻めているのも間違いない。   例えば2話。拉致された乗客の1人である柏めぐみ(佐津川愛美)が、不妊治療を受けていて、体外受精なら妊娠の可能性があるものの、義母たちから「それは神の領域だ」と反対されていることを告白した場面。  久能は「人は自然の生き物なので、人のすることは全て自然の範疇だと思います」と自分の考えを口にした。共感した人は多かったはずだ。半面、今も体外受精を認めていない世界的宗教は複数ある。もしも反発を恐れたら、このセリフはカットされただろう。  読む人が限定されている漫画や小説と違い、地上波は世帯視聴率1%で約118万人が見ている。より慎重にならざるを得ない。半面、無難にまとめるため、角を取ると、素っ気ないドラマになってしまう。さじ加減が肝心。このドラマはうまくやっていると思う。
次のページ
主演級の顔ぶれが並ぶゲスト出演者
1
2
3
放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員

記事一覧へ
おすすめ記事
ハッシュタグ