お金

利下げすれば必ず景気がよくなるわけではない?元日本銀行副総裁が解説

 私は経済学者として国内外の大学で教鞭をとったりした後、’13~’18年には日本銀行副総裁として金融政策の立案にも携わりました。そこで、感じたのは「経済を知れば、生活はもっと豊かになる」ということ。そのお手伝いができればと思い、『週刊SPA!』で経済のカラクリをわかりやすく発信していきたいと考えました。

利下げすれば、景気は良くなるんじゃないですか?

経済オンチの治し方

イラスト/岡田 丈

 確かに利下げには景気浮揚効果があります。しかし、“ゼロ金利”の日本ではこれ以上利下げすることは難しく、「利上げしない」ことが景気を良くするための必要条件なのです。十分条件でないのは、景気の良しあしは金融政策だけなく、財政政策にも依存するからです。  そもそも、利下げすれば必ず景気がよくなるわけでもありません。  国内総生産(GDP)における需要項目(日本では個人消費が約5割を占めます)が、企業の供給能力の推計値を示す「潜在GDP」を上回る状態を「需給ギャップがプラスである」といいます。  プラスの場合に利下げ(銀行間の短期融資の金利=コールレートの引き下げ)をすると、民間への貸出金利の低下を通じて借入需要が増加しますが、需要が増えても供給を増やせないためインフレが加速して、景気が悪化してしまいます。  一方で、需給ギャップがマイナスのときは、利下げして景気がよくなる可能性があります。現在の日本経済が、まさにこの状況にあります。  マイナスの場合、企業は少ない需要に合わせて、生産を縮小しなければなりません。しかし、利下げは需要を高めるので生産を増やせます。消費が増えれば、消費財(飲食・宿泊サービス、電化製品など)を供給している企業の生産は増加し、住宅を買う人が増えれば住宅生産も増加します。  企業の借入金利が低下すれば、融資を受けて設備に投資することが有利になりますから、設備投資の増加を通じてさらに生産も増えていきます。
次のページ
これ以上利下げできない日本はどうすべき?
1
2
3
東京大学大学院経済研究科博士課程退学。上智大学名誉教授、オーストラリア国立大学客員研究員などを経て、’13年に日本銀行副総裁に就任。’18年3月まで務め、日本のデフレ脱却に取り組んだ経済学の第一人者。経済の入門書や『「日本型格差社会」からの脱却』(光文社)、『自由な社会をつくる経済学』(読書人)など著書多数

記事一覧へ
おすすめ記事