直木賞作家・姫野カオルコ、こだわりの“親指シフト”について熱弁
初めて直木賞の候補になって17年、5回目のノミネート作品『昭和の犬』で、ついに受賞を果たした姫野カオルコ氏。受賞会見にはジムから直行したというジャージ姿で臨んだことも大々的に報じられた。作品同様、会見でもウイットに富んだ切り替えしを見せ、ユーモアを忘れないサービス精神旺盛な彼女だが、文章を書くにあたってはあるデバイスが貢献しているという。
例えば『ツ、イ、ラ、ク』という作品の「ヤッて犯ってヤッて犯って」の夥しい繰り返しをはじめ、姫野作品には言葉の反復がかなり意識的に使われているが、「あれも言葉を見たときに、頭に直接イメージとリズムが伝わればいいなと。ああいう表現には親指シフトキーボードが非常に貢献してくれています」と姫野氏は語る。
親指シフトキーボードとは富士通が開発した日本語入力用のキーボード。独自の文字配列と、通常、中央スペースキーのある部分に配置された左右2個のシフトキーが特徴で、効率的な日本語入力を実現したキーボードとして根強いファンがいる。
「親指シフトキーボードというのはローマ字入力のキーボードと違い、一番よく使う『かな』がラクにタッチできるようになっているので、頭に言葉が浮かぶスピードと指の動きをほぼ一致させることができるんです。おかげで本来の日本語のリズムを壊さずに済む。でもこういう取材の場で『親指シフト』って口にするたびに、みなさんキョトンとされるんですよね……」
姫野氏は直木賞の受賞会見でも親指シフトキーボードについて強調し、報道陣はざわついていたという。
「先日、『王様のブランチ』に出演させてもらったのですが、2時間収録したうちの半分ぐらいは親指シフトの話をしたのに、オンエアではすがすがしいほどあっさりカットされていたんです……。本当にすばらしいんですよ? 親指シフト……」
書き続けるモチベーションを聞いても、「モチベーションじゃないんですよ。書くことしかできないからやっているんです。この年だし、ほかの仕事はもう無理。でも、親指シフトを使って速記の仕事ならできるかも……」と語る姫野氏。
作家には筆記用具に強いこだわりを持つ人も多い。かつては万年筆や原稿用紙へのこだわりを語る人も多かったし、10年ほど前はパソコンでの執筆ではなくワープロでの執筆にこだわる作家も多かった。ネットで調べると親指シフトキーボードの価格は1万5000円以上はするようだが、直木賞作家にここまで勧められると使ってみたくなってしまう……。
<本誌構成/倉本さおり 撮影/尾藤能暢 再構成/SPA!編集部>
※現在発売中の『週刊SPA!』2/25発売号の「エッジな人々」では姫野カオルコ氏のロングインタビューを掲載中。親指シフト以外に、当然のこどく作品の話、そしてダンスの話を語っている。
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『昭和の犬』 滋賀県に生まれた柏木イクが両親、犬、猫たちと共に過ごした半生を描く。姫野カオルコの自伝的小説ともいえる作品 |
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