“バックランド時代”という長編ドラマ――フミ斎藤のプロレス講座別冊 WWEヒストリー第26回

「フミ斎藤のプロレス講座別冊」月~金更新 WWEヒストリー第26回


 28歳のチャンピオン、ボブ・バックランドの出現でWWEは新しい時代を迎えようとしていた。

“バックランド時代”という長編ドラマ

バックランドがチャンピオンになってから2年めの1979年4月、WWWFは団体名をWWFに改称。33歳だったビンス・マクマホンが、64歳の父ビンス・シニアに「Wが3つ並ぶのは企業イメージが悪い」と進言した。(写真は米専門誌「ザ・レスラー」1982年5月号表紙)

 1978年2月20日のマディソン・スクウェア・ガーデン定期戦のオフィシャル・プログラム“WWWFチャンピオンシップ・レスリング”の表紙には2枚の写真がフィーチャーされていた。

 1枚はバックランドがニッコリ笑った上半身のポーズ写真で、写真のすぐ下には「ミネソタ州プリンストンのボブ・バックランド。みんなのオール・アメリカン」というキャプションが躍っている。

 もう1枚はジミー・カーター大統領(当時)がマスクマンのミスター・レスリングⅡにヘッドロックをかけている写真で、キャプションは「ミスター・プレジデント。アメリカのナンバーワン・レスリング・ファン」となっている。現職の大統領がプロレスのプログラムの表紙に登場したのはあとにも先にもこのときいちどだけだ。

 この写真はもちろんWWEのオリジナルではなく、アメリカのニュース通信社が世界じゅうに配信した“おもしろトピック”だった。カーター大統領の母親が大のプロレスファンで、地元ジョージア州アトランタではよくジ・オムニに足を運んでいたのだという。バックランドとカーター大統領に共通点があったとしたら、それはふたりとも典型的なベビーフェースだったということかもしれない。

 バックランドはWWEヘビー級王者として順調なスタートを切った。前王者“スーパースター”ビリー・グラハムとのリターン・マッチ・シリーズが2カ月連続でガーデン定期戦をソールドアウトにした(1978年3月20日、同4月24日)。

 ピカピカの1年生チャンピオンのバックランドには、ニューヨークのオーディエンスにとってはなじみの深いチャレンジャーたちが用意されていた。ケン・パテラ。スパイロス・アリオン。ジョージ“ジ・アニマル”スティール。イワン・コロフ。アーニー・ラッド。バックランドは、かつて“生ける伝説”ブルーノ・サンマルチノを苦しめたベテランの悪役を次つぎとアトミックドロップでやっつけていった。

 長編ドラマ『バックランド時代』のシーズン1は、定番カードのリメイクが観客を安心させ、バックランドの人気を安定させた。サンマルチノ、グラハム、アンドレ・ザ・ジャイアント、ダスティ・ローデスといった別格のスーパースターたちがきっちりとアンダーカード=前座をかためていたこともバックランドの位置づけを明確にしていた。

 シーズン2からは新しいチャレンジャーたちが登場してきた。まず、それまでベビーフェースだった“ハイ・チーフ”ピーター・メイビア(ザ・ロックの祖父)がバックランドにケンカを売った。メイビアとの因縁ドラマに決着がつくと、こんどはバックランドと同世代の“妖鬼二世”グレッグ・バレンタインがニューヨークにやって来た。

 バックランドがチャンピオンになってから2年めの1979年4月、WWWFは団体名をWWF(ワールド・レスリング・フェデレーション)に改称する。イニシアチブをとったのはビンス・マクマホン・ジュニア――現在のビンス・マクマホン――だった。33歳(当時)の息子ビンスが、64歳(当時)の父ビンスに「Wが3つ並ぶ名称は企業イメージが悪い」と進言した。

 WWWFはダブリュ・ダブリュ・ダブリュ・エフと発音してもいいし、トリプル・ダブリュ・エフとも読める。日本ではスリー・ダブリュ・エフという呼び方がポピュラーだった。ビンス・ジュニアは「トリプルもスリーもマイナーな響き」と考えた。たしかに、ベースボールでAAA(3A)といえばメジャーリーグではなくマイナーリーグである。

 やがてみずからのフルネームから“ジュニア”を削除するビンスがバックステージでの発言力を強めていくのもこの時代だった。1970年代のフィナーレがはじまり、ビンスの思い描く1980年代がゆっくりと近づきつつあった。(つづく)

斎藤文彦

斎藤文彦

※この連載は月~金で毎日更新されます

文/斎藤文彦 イラスト/おはつ

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