東京五輪の陰で“東京の中の自然”が消滅の危機に
日本一大きな観覧車、水族館、バーベキュー広場に芝生、そして大きな森や池があり、年間来訪者は320万人という、東京都内でも人気のレジャースポットである葛西臨海公園(江戸川区)。81haにわたる広大なこの公園には、都内でも貴重な干潟が広がっていて、オオタカ、ウグイス、ヤツガシラなどの野鳥226種、昆虫140種、クモ80種、樹木91種、野草132種が観察されるなど、貴重な環境が保全されている。
この西側に、東京オリンピックのカヌーのスラロームコースが建設される予定だという。競技のための人工的な激流を造ることで、貴重な干潟が破壊されてしまうかもしれないのだ。公益財団法人「日本野鳥の会」の葉山政治自然保護室長はこう語る。
「ざっと東京ドーム4個分の20haで施設整備がなされる予定です。カヌー人口は極めて少ないので、オリンピック閉会後に撤去する仮設施設ならまだしも、恒久施設とあっては見過ごせません。我々は、3か所ほど代替地の提案をしていきます」
野鳥の会はすでに4回ほど東京都と交渉を行なっており、カヌー競技の観覧席1万2000席を常設施設から仮設施設に変更させるなどの成果を挙げている。「話し合えば分かってくれる、と前向きにとらえています」(葉山さん)
そもそも、なぜ葛西臨海公園が選ばれたのか? 東京都スポーツ振興局に尋ねてみた。
「東京オリンピックは“コンパクトなオリンピック”をひとつの目玉としていて、選手村から半径8km以内に33競技中28競技の会場を配置します。また、公共交通機関の存在などもあります。そして、都内には水関連のスポーツ施設がないことから、閉会後も一般住民にカヌーやラフティングを楽しんでもらう恒久施設を作りたい。総合判断すると葛西臨海公園が最適でした。25年もかけて整備した都立公園です。わざわざ自然破壊はしませんよ。ただ、最低限の伐採や移植は行なうことになると思います」
もともと葛西臨海公園は、東京都が漁業権を買い取り、25年をかけて今の自然豊かな場所に再生させたものだ。そこまでして『コンパクトなオリンピック』にこだわる必要があるのだろうか?
「あの公園は自然環境が整う、江戸川区民の誇りとも言える施設です」と話すのは、江戸川区経営企画部の千葉孝企画課長。
「地元住民と東京都・江戸川区がともに努力して今の環境を育ててきたという思いがあります。そういう意味でもあの場所での施設建設には問題があると考えています。まだ候補地であって、決定したわけではないと捉えていますから、都と話し合って最善の解決策を探っていくつもりです」
葉山さんも断言する。
「都は、過去の交渉で私たちに『反対を押し切ってまではやれない』と言いました。そして、野鳥の会の声明に賛同するのは今120団体に達しています。都はこれらの声を無視できないと思うんです」
IOCは会場での自然保護を意識しているが、都も独自に28会場の環境影響評価を今年度から数年かけて行う予定だ。市民団体も江戸川区議会もマスコミもそれに注目している。
「1998年の長野オリンピックのときも、自然保護の観点から新しいスキー場の開発を断念したことがありました。都も、わざわざオリンピックのために自然破壊をしないと思いたい」(葉山さん)
わずか数日の競技のために破壊されようとしている干潟、どうにか救うことはできないものだろうか?
週刊SPA!10月1日発売号「東京五輪の陰で進む8つの”浄化作戦”」では、この他にも「五輪」という”大義”のもとに排除される危機に瀕している8つの事象についてリポートしている。誰もが楽しめて、本当に被災地を、そして日本を元気にさせてくれる五輪を実現するためにも、改めて考えてみたい。 <取材・文/週刊SPA!編集部>
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