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原発暴発阻止 72歳「平成の特攻隊長」インタビュー

参院議員会館で行われた「福島原発暴発阻止行動プロジェクト」の院内集会。参加者の多くが60代、70代とお見受けする方ばかりだった(ホワイトボード手前中央が山田氏)

「少なくとも子供をつくる可能性がある世代は、絶対に被曝すべきじゃない。次の世代に取り返しのつかない負の遺産を背負わせないためにも、私たちシルバー世代の人間のなかには、何かやれることはないかと考えている人は多いんです……」 原発の廃棄物処理やプラント建設の仕事に携わってきた72歳のベテラン・エンジニア、山田恭暉氏が呼び掛けた「福島原発暴発阻止行動プロジェクト」が話題になっている。危機的状況が続く福島第一原発復旧に向け、60歳以上の有志を募って一緒に作業を行おうという呼びかけに、5月28日現在、実に232人が「参加」を申し出ているのだ。同プロジェクトの発起人である山田氏が、日刊SPA!の取材に応じてくれた。 ――決死の覚悟で行動を起こした「平成の特攻隊」といったイメージを持った人も多いと思いますが。 山田 そんなカッコいいものではないですよ(笑)。現場に行ったら、ちゃんと安全管理をした上で作業にあたるつもりですし。最悪のことが起きているのだから、若い世代の人たちに負の遺産を背をわせないためにも、年寄が率先してあの場に行くべきと思っただけで、別に世のため人のために立ち上がりました、というわけではないんです。参加を表明している方たちは、みなさん一人一人が、それぞれの思いで手を挙げていると思ってます。 ――「60歳以上」という年齢を条件として設定したのは。 山田 医学的な検証はしていません。人間は年を取れば取るほど、放射能に対する感知性は低くなるということはわかっていますし、とりあえず、60歳以上という線引きで募ったまでです。これはまちまちですが、あるお医者さんによると、45歳を過ぎた人であたったら、今後ガンが発生するというリスクはほとんどないという人もいる。まぁ、いろいろ専門家の意見を聞いて、年齢の部分は動かしていきたいと考えています。 ――現段階で、200人を超える人が参加表明しています。 山田 女性も数人入っていますし、最高齢は79歳の方です。ただ、これくらいの数では全然足りません。これから長い戦いになるわけですし、被爆制限もありわずかな時間しか作業が進められないのですから、どうしても何千人という数が必要となってくるはず……。 院内集会を3回ほど開いたのですが、なかには感極まって涙する男性もいました。その彼は、福島原発4km圏内の大熊町から東京に避難してきた元原発作業員の方でしたが、「自分が福島に帰りたいから、自分が原発を元通りにして福島に帰りたい」と話していました。声を挙げてくれた人たちの考えは、皆さんまちまちで、お国のために働きたいという人もいれば、家族のためという人もいる。ある方は、「人類のためにやりたい」とおっしゃっていました。 ――もともと、ご自身は60年安保世代です。学生時代は、全学連運動の真っ只中で、「社会主義学生同盟副委員長」の肩書もあったとか。 山田 不思議なことに、「元左翼学生」が今回のことで正統派の保守層の方たちからたくさん激励の言葉を受けました(笑)。実際に、共感頂き、参加して頂いた方のなかにも退役自衛官がかなりいらっしゃる。保守論壇の記者さんにも「これぞ、日本精神!」とお褒めの言葉を頂きました。しかし、自分は何かのためにやっているというわけでもないですし、今は右も左も関係ないときだと思っています。京大助教の小出裕章先生も賛同してくださったし、その先輩にあたる海老沢徹さんもいらしてくれた。私の大学の同窓生で東大の名誉教授の友人とも、「がんばろうな!」って話していたんですが、最高の頭脳を持っている人もいる、最高の技能を持っている人もいる、そして、みなさん最高の経験を持って集まってくれている。きっと何とかできると思っています。 ――政府に働きかけるなど、実際の行動についてはどのように考えているのか。 山田  数日前に、実は細野豪志首相補佐官に会ってもらいました。私たちの提案を説明して、参加者の名簿を預けましたが、細野さんは「思いはしっかり受け止めます」とおっしゃって、最後はあちらから握手を求めてきてくれました。実際の行動に移すとなると、法的な面でもいろいろ働きかけなきゃいけないのでまだまだ時間がかかるとは思いますが、地道に働きかけていければと思っています。まぁ、物事がスムーズに進めば、最短で1か月後に現地に赴くということもあるかもしれません。そのときは、ぜひ働きたいと思っています。ただ、いろいろな方から励ましの声を頂いているのですが、行動に参加しない「元技術者」や「元作業員」はけしからん! となるのは困ります。行動する自由があるとともに、行動しないという選択肢も尊重されるべきなので。 山田恭暉◎1962年。東大工学部を卒業後、住友金属工業にエンジニアとして勤務。製鋼技術や廃棄物処理、環境、プラント技術などの仕事を歴任した。「福島原発暴発阻止行動プロジェクト」発起人。http://bouhatsusoshi.jp/
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