将棋ソフトの死角をついた“ハメ手”で100万円獲得【将棋電王戦レポート】
2月28日と3月1日の2日間にわたりニコニコ生放送にて中継された「電王AWAKEに勝てたら100万円!」は、そのタイトル通り、アマチュアが現在最強のコンピュータ将棋ソフトであるAWAKEに挑戦し、勝ったら100万円がもらえるという企画。プロ棋士とコンピュータが雌雄を決する将棋電王戦関連のイベントとして、毎年恒例となっているものだ。
同様の企画は「電王戦大将ソフト開発者、結婚資金100万円を賭けて対決」、「GPS将棋トライアルマッチで300万円放出 ニコ生運営『想定していなかった』」でもお伝えしたとおり、過去にも開催されており、今年で3回目。初年度こそ勝利者が3人出てニコ生運営をあわてさせたが、昨年は全166戦で勝利者はゼロ。今年もコンピュータはさらに強くなっていることが予想され、将棋ファンの間では「もう企画自体が成立しないのではないか」という空気であった。
イベントが盛り上がらなければ本末転倒であるため、今年は人間側に有利なルールがいくつか組み込まれていた。まず電王AWAKEはデスクトップではなく、非力なノートPCであること。そして昨年は「持ち時間20分で使い切ると切れ負け」だったが、今年は「持ち時間10分で使い切ると1手10秒」となった。
それでもアマチュアがまともにぶつかったら、ほとんど望みはない。現在の将棋ソフトは、そのくらい強くなっている。したがって、勝つにはソフトのバグを突くような「ハメ手」で明らかに人間が優勢な局面に誘いこむしかない。対局前の参加者たちの間では「コンピュータ相手にはこの作戦が有力らしい」等の情報交換も盛んだった。
しかし初日はそんな参加者たちに絶望を感じさせる立ち上がり。イベント開始後2時間あまりで40人の参加者の半数が敗退。何の見せ場もなく、予定より早く放送が終わってしまうのではないかという勢いだ。アマチュア強豪だろうが元奨励会員(プロ予備軍)だろうがおかまいなく、AWAKEは神のごとき強さを見せていた。
「将棋倶楽部24のレートは3000くらいです」
もう帰り支度をしたほうが良いのかとすら考えていた記者の耳に、こんな対局前インタビューの声が聞こえてきた。ネット将棋サイト「将棋倶楽部24」でレート3000というのは、ほとんどプロ級、というかお忍びで練習しているプロや奨励会員でもやすやすとは出せない点数だ。少し気になってモニターを眺めていた記者は目を疑った。画面には、とんでもない局面が現れたのである。
⇒【画像】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=810033
戦型は角交換四間飛車で、先手の人間が銀冠に、後手のAWAKEが穴熊に組もうという形。突然AWAKEが先手陣奥深くに角を打ちこむ。これは……。打ちこんだ角は、すぐに追いこまれて取られそうである。まったく意味がわからない。そして実際に角と桂の交換になる。これはどう見ても先手優勢である。参加者の間からどよめきが漏れた。
先手はアマチュアの山口直哉氏。アマチュア王将位の獲得経験もある有名な超強豪だそうだ。だとすればこれは研究済みの「ハメ手」で、もう勝ちなのではないか。とはいえ後手のAWAKEは穴熊で守りは鉄壁、先手陣は桂を取られて乱されている。これからAWAKEの攻めを受けきれるのか、という勝負。
しかし山口氏の指し手は乱れない。AWAKEの攻めをスルスルとかわし、あっという間に入玉。と金を大量に作ってAWAKEの穴熊をおびやかす。たとえAWAKEに逃げられて持将棋になったとしても飛車2枚、角1枚あるので駒の数で判定勝ちになる。もうこれは確実だ、というところでAWAKEが投了。151手で山口氏の勝利。2年ぶり4人目の100万円ゲットである。
対局後の山口氏にお話をうかがったところ、今回の作戦は、スマホアプリ「将棋ウォーズ」で対局できるponanzaやツツカナ相手に200回ほど試して見つけた5種類くらいある有力な作戦の内のひとつとのこと。同じ形に誘導できる可能性も高く、そうなればだいたい勝てていたという。おそるべき研究だ。
ただしAWAKEとは直接対局の機会がなかったため、実際に使えるかどうかは未知数だったそうだ。それが見事にハマったということは、特定のソフトのバグではなく、コンピュータ将棋ソフトに共通する弱点ということだ。
この大勝利を目にした参加者たちは、にわかに色めきだつ。同じ局面に誘導できれば100万円も夢ではない。同一局面で100%同じ手を指してくれるわけではないため、再現性がどのくらいあるのかは不明だが、残りの全員がずっとドアを叩き続ければ、夢の扉は開くのではないか……。
そんな参加者たちの思惑を知ってか知らずか、AWAKEはまた同じ局面に誘導されていく。これはホンモノだ、いける! ――しかし勝てない。さすがAWAKEである。
いくら序盤で優勢といっても代償なしに角を丸得できるほどではない。また普通の将棋では見かけない形になるので、力将棋(定跡を外れた将棋)になりやすく、相当な事前研究と実力がないと勝ち切れない。結局、初日は山口氏の対局も含めて合計3回、同じ作戦で成功の局面が出現したが、勝てたのは山口氏だけで終わった。
⇒【後編】に続く https://nikkan-spa.jp/810264
<取材・文・撮影/坂本 寛>
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●将棋電王戦 電王AWAKEに勝てたら100万円!
http://ex.nicovideo.jp/denou/million2015/
●将棋電王戦 HUMAN VS COMPUTER | ニコニコ動画
http://ex.nicovideo.jp/denou/
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