盛衰激しいコスプレ系バー。生き残るヒントは部屋飲みにあり

 栄枯盛衰激しい夜の街を見始めて早10年。欲望にまみれ、時にはボッタクリの被害に遭いながら、ある真理に到達した。その業態にこだわらず、コンセプトありきの店はまず長続きしない。正確に言えば、コンセプト“だけ”の店は長続きしないのだ。

 その最たる例が’05年に秋葉原で巻き起こったメイドブームだ。当時、雨後の筍のように乱立したメイド喫茶、メイドバー、メイドマッサージ。ついにはメイド占いなる店まで登場したが、その多くはオープンからわずか1年ほどで閉店を余儀なくされている。

単なる軍隊コスプレと思うなかれ

MT基地

「戦闘員」の加藤さん(右)と冬峰さん(左)。アニメオタクが多く、年代を選ばず会話を盛り上げてくれる。「土曜日は満席になるくらい激混みです」

 理由は一つ。これらの店はただ単に女性スタッフにメイド服を着せ、客を「ご主人様」と呼んでいたにすぎなかったからだ。

 いくら店が派手な装いをすれども、そこは飲食店。新規客とリピーターが一定の割合で来店しなければ淘汰される運命にある。

 その点、戦闘員コスプレの女のコが出迎えるミリタリーをコンセプトにしたこちらの店は白眉な存在だ。オープンは3年前の’13年。コスプレ系ガールズバーの寿命は平均13か月(ワルヂエ調べ)という中で、かなり健闘していると言えよう。なんと、時間帯によっては満席になることも珍しくない。

 いったい、人気の秘密はどこにあるのか。謎を解くヒントは、かつて留年を繰り返していたワルヂエ青年の学生時代にあった。

 この店では女のコが戦闘員、客が訓練兵という設定で店内でカラオケやミニゲームを楽しめるほか、オタク系のイベントが毎月開催されている(アニソン総選挙など)。

 常連の男性客が多い理由は高円寺というサブカル系が多く住む立地との相性もあるだろう。だが、それ以上に大きいのはこの店が単なるコスプレバーに留まっていないことだ。

「フードメニューは軍隊にちなんだ名前になってるんです。焼きそばとたこ焼きは訓練兵にちなんで“泥まみれセット”。飲み放題メニューは来店回数に応じて飲めるお酒が増える“階級制”です」

MT基地 説明してくれたのはアニメオタクでコスプレイヤーの戦闘員・加藤さん。だが、そんなミリタリー用語に囲繞された店のコンテンツをつぶさに見てみると、アットホームの一言。ミニゲームは麻雀、Wii、トランプなど、スナック菓子をボリボリつまみながら楽しめる「部屋飲み」では定番の遊びばかり。

MT基地

店内にあるガンシューティングを戦闘員・加藤さん指導のもとプレイ。

MT基地

スナックをつまみながらWiiで対戦。店内の客全員が参加することも。

 学生時代、ワルヂエ記者は友人宅でタバコをふかしながら徹夜で麻雀、飽きたらウイイレ、腹が減ったら「コンビニで俺、なんか買ってくるわ」を無限ループしていた。だが、30歳を過ぎて独身一人暮らしを続けている今、部屋飲みの機会は激減。この店は、そんな「あの日」の記憶を呼び戻してくれる。

 訪れる客たちが戦闘員(女のコ)を「部屋飲み仲間」と見なしていることは、加藤さんが話す次のエピソードを聞いても明らか。

「オープンして1年くらいかな?店の人気が出てきたころに、メイドカフェみたいに女のコのチェキを販売したことがあるんです。でも、お客さんみんなから『お前らのチェキは別にいらない!』って言われたんですよ(笑) みんなただアニメの話をしたり、ゲームをしたいだけみたいで。それ以来、メイドカフェみたいなサービスは一切やめました(笑)」

 店のホームページにファンタジックなストーリーをダラダラ載せるコスプレ系ガールズバーとは一線を画し、徹底的なリアリズムを貫くMT基地。もはや、君たちはそのコスプレを脱いでも誰も困らないのでは? そう思念しながらブラックニッカを喉に流し込むワルヂエだった。

MT基地

トランプを使った運試し三番勝負。結果は加藤さんの勝ち!

【MT基地】
住:東京都杉並区高円寺南3-59-9 ステラハウス103
電:03-4291-8042
営:20時~LAST
休:なし
料:1時間飲み放題3000円 ミニゲームの獲得ポイントに応じた「階級」によって飲み放題メニューが増える。女のコのドリンクは1 杯1000円

MT基地撮影/田中一矢 協力/伊藤 綾

の他の記事