更新日:2017年11月16日 20:56
お金

ベンチャーの杉ちゃん登場――連続投資小説「おかねのかみさま」

「そっからだよ。このひとがすごいのは」 「はい」 「Aloneのサビでハモってきたんだよ」 「!!!?」 「英語だぜ!わかる!?」 「す、すごい、老人なのに」 「恐縮です。ほっとけ」 「僕ぁもうさぁ、号泣よ。そっから朝まで歌って、最後『あいかわらずなボクら』歌ってお開きよ。わかる? この達成感」 「う、うん。正直理解度27%くらいだとは思うけど、それでも十分すごいです」 「だろー。で、そっからがこの人のすごいとこ。店出て、二人で小諸そば行こうってなって、B’zの話しながら蕎麦食ってたらこのひとなんて言ったとおもう?」 「なんて言ったの?」 「『杉ちゃん、このまま飲んでたら、あなた今年中に死にますよ』って」 「なんだ。そういうこと言う人よくいるじゃない」 「ちがうんだ」 「なに?」 「『正確に言うと、12月の25日に死ぬことになってます。今日はそれを伝えに来ました。あなたに残された時間は少ないですが、アリンコファンタジーの改善に集中してください』」 「ぇ???」 「そう。その時の俺もそんな顔してた。『ぇ?』だろ。スナックでたまたま隣に座った人が、自分の会社も知ってる上に、死ぬ日まで正確に予言してきたんだよ」 「きもちわるーい」 「そうそうきもちわるい。ほっとけ」 「俺もう、すすってた蕎麦噴き出したね。カメラ3台使って何回も再生してもらいたいくらいに勢いよく噴き出した。それでカミサマに聞いたんだよ。でも何から聞いていいかわかんないから、こう言ったんだ」 「なんて?」 「『僕、どうしたらいいですか?』って」 「うんうん」 「そうよね。死にたくないし、そもそも何者なんだって感じ」 「うん。そうなんだよ。そしたらこの人こう言ったんだ『アリンコファンタジーの致命的な欠陥は、アリが小さすぎるところです』」 「あ」 「もうね、盲点。育てゲーなのに、アリちっちゃいから身長2倍でもわかんないの」 「(あたしもそうおもってた…)」 「だからさ、もうなんで俺のこと知ってるとかどうでもよくなって、そっからそのまま会社に行ってブレストよ。で、アリファンのバージョンアップ版を1時間でつくったの。それが『アリンコ大統領』」 「なんで大統領なの」 「いままでさ、アリ育ててもゴールがなかったんだよね、つまり、デカくなったアリがヨボヨボして死ぬだけのゲームだったの。だけど今度は、アリを大統領にする戦略性を加えたんだよ」 「戦略性…」 「そう。カミサマのアイデアな。俺も半信半疑だったよ。アリを大統領にしても意味ないじゃん。みんな似てるし、でもさ、ちょうどアメリカの大統領選がアツくなってきて、テレビの取材がわんさか来たんだよ」 「おーーーーーー」 「あれはよかったですねぇ」 「もうおどろいたよ。いままでずっとまじめにいいもの作ればみんなわかってくれると思ってやってきたけど、そうじゃないんだ」 「え? どういうこと?」 「みんなもうね、反射で生きてる。なんも考えてないし、わかろうともしない」 「ざんねんですが…」 「あー、あるかも」 「それから俺、心を入れ替えてっつーか、逆にもうどうでもよくなって、アリンコ大統領のオンライン対戦とかマルチプラットフォーム化とかクラウド対応とかアリまつりとか思いつくことなんでもやったんだよ」 「すごーい」 「わかってないでしょ」 「うん」 「とにかく、その結果劇的にユーザーが増えて、来期上場することになったの!」 「すごーーーーーーーーーーーい!!!!!!!!!!!!!!」 「上場はわかるんですね」 「はい。たくさんいらっしゃいますので」 「でもねー、だとしても俺、死んじゃうらしいんだよね」 「え???」 嬢B-F「コワーーーーーーーーーい!!!!」 次号へつづく 【大川弘一(おおかわ・こういち)】 1970年、埼玉県生まれ。経営コンサルタント、ポーカープレイヤー。株式会社まぐまぐ創業者。慶応義塾大学商学部を中退後、酒販コンサルチェーンKLCで学び95年に独立。97年に株式会社まぐまぐを設立後、メールマガジンの配信事業を行う。99年に設立した子会社は日本最短記録(364日)で上場したが、その後10年間あらゆる地雷を踏んづける。 Twitterアカウント https://twitter.com/daiokawa 2011年創刊メルマガ《頻繁》 http://www.mag2.com/m/0001289496.html 「大井戸塾」 http://hilltop.academy/ 井戸実氏とともに運営している起業塾 〈イラスト/松原ひろみ〉
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