「テンポの漫才は間違いない!」と確信
ユウキ:東京と福岡でバッドボーイズのイベントがあって。俺が構成作家として携わるようになったんだけど、ハリガネがやってたテンポが早くてボケ数の多いやつを持っていったら、最初は「こんなのはやりたくない」と言う。とはいえ、「この通りにやれば絶対に大丈夫だから」と説得して。実際に当日を迎えたらお客さんにめちゃくちゃウケたのよ。その次、1年後かな。またバッドボーイズのイベントをやるとなったときに、偶然にも石田が『EXD44』というテレビ番組の企画でバッドボーイズのダメ出しをしてくれたから、「じゃあ、石田にネタを1本書いてもらおう、石田の漫才を1回やろう」って話になり、石田にネタを持ってきてもらったんだよね。
石田:あ、そういうことだったんですね。
ユウキ:俺も作家だから石田のネタを見て、やっぱり
テンポのある、ボケ数の多い漫才だなと。そして、福岡でも東京でもそれがいちばんウケる。そこで俺は確信したのよ。
テンポの漫才は間違いない。いま俺、松竹芸能でもお笑いの講師をやってんねん。この結論は「今日、俺が石田に聞いてくるから」って生徒に宣言してきた(笑)。
石田:これは、僕も自分の中で確信しています。
ユウキ:だからネタの作り方として、細かいセリフ分けってのを意識してるよね?
石田:はい。あと、やっぱり人間としての、独自の“
聞き心地”というものがあるので。
ユウキ:そう! 俺もよく聞き心地って言うんだけど、だれもピンときてくれへんねん。でも、聞き心地って絶対あるよね。
石田:大事です。声のバランスもあります。どんだけテンポが良くても、声質が合ってなかったら聞きとりにくい。
ユウキ:喋る数もある。5を喋ったら、もう片方も5を喋るのが聞き心地がいい。音楽じゃないけど、やっぱりリズムがあって……もうビックリしたで! 俺以外で聞き心地とか言ってる人は初めてや(笑)。だから案外、プロでも粗い人が多いのよ。これを整えたら全然ちゃうのに。
石田:もっと良くなると。ちゃんとテンポを考えてやれば、さらに遊びの部分が活きてくる。そこを雑にいってしまってるから、たんにグダグダな漫才に見えちゃう。なので、遊びの部分が跳ねると思ってる人ほど、その前段階もしっかりまとめた方がいい。とはいえ、僕たちみたいなタイプは、全部しっかりやるだけなんですけどね……。
ユウキ:講師をやってて思うことがあって。今まで芸人をやってた人が講師になるのって、あんまりなくて。作家の人が講師をやるのが普通。もちろん、作家の人がやるような座学とか講義もできる。だけど、それよりも
「一般の素人だった人がプロになる」というときに、どうしてあげるのがいいのか考えた。やっぱりね、“
皮を剥ぐ作業”が大事だと思って。プロとアマでいちばん違う部分って、
ツッコミの力。要するに、ツッコミがうまい素人って、なかなかいない。
石田:素人では、いないですね。
ユウキ:ツッコミ、声質、恥じらい。この3つの皮が剥げたら、成長の速度もケタ違いに早いんですよ。だから生徒には自分で1分のネタを作ってもらって。それを部分部分でやらせて、何回もツッコミを直させる。「いや違う、違う、もう1回」とか。それで何回も声を出させて。そのネタが、1分でボケが7個ぐらい入っていれば、トップスピードのネタだと言える。だから、そうなるためにはどうしたらいいのか。ネタフリのスピードやリズム、聞き取りやすい喋り方を徹底的に意識させる。もちろん、そんなことはしていない漫才師も多いけど、基礎としてやっておいたほうがいいと思って。俺、間違ってるかな?
石田:いや、間違ってない。
ユウキ:だから、今日は、それをすべて石田に確認したの。
石田:でも俺、そんな大物でもないし(笑)。
ユウキ:いや、
同系統の頂点って、NON STYLEだと思っているから。結局、俺は“崩れ”やから。だからトップの人に聞いて、間違ってるのかどうかちゃんと確認しておいたほうが、俺も仕事が増えるかなと(笑)。
石田:僕がよく後輩たちに言うのは、「
クイズ番組理論」。クイズ番組って難しすぎても面白くないじゃないですか。難しい問題だと、考える時間が長い。その時点で面白くないじゃないですか。
答えられそうで答えられない問題をギリギリで先に答えられるのが、いちばん面白いクイズ番組やと思うんです。
ユウキ:そうやな。
石田:そのぐらいのテンポでボケとツッコミをやっていくのが見ていて心地がいいと思うんです。それが、僕たちみたいなポップな漫才師には必要だと後輩には言っている。でも、みんな自分を大きく見せたがっちゃう。特にボケの人は。だから、わざわざ難しいボケをしちゃうんですけど、それってすごい、もったいなくて。そのボケを見せたいんやったら、そこまでを上手いこと組み立てれば、もっと面白くなるのに……いきなり一発目でやっちゃうから。いわば、ストレッチが下手なんですよ。
ユウキ:昔よくやったのが、
わざと弱いボケを入れていく。なぜなら、より強いボケを際立たせるため。それをわかってくれない人が多い。全部のボケを強くしたらええやんって思われるかも知れないけど。そりゃ、全部を強くできたらええよ。でも現実的にそうもいかないから、
より効果的に見せるにはどうしたらいいのか。3段落ちの構成で考えたとき、順番にすると、強いボケをケツにもってきて、2番目に強いボケが最初、真ん中でちょっと落とせば、ドンって見える。それがわかる人、わからない人で大きな違いがあるよね。
【3段落ちの構成】
・2番目に強いボケ
・弱いボケ
・もっとも強いボケ
石田:ネタを書いて渡しても、あえてロイター板みたいな役割で入れてるボケをみんな削りたがりますからね。これに気付いてほしいです。僕たちも正直、そのボケが弱いことを知っているから、恥ずかしがりながらボケてるときだってあるんです(笑)。
ユウキ:そうそう、我慢やねん、我慢。
石田:コレをもっといろんな人に教えてあげてくださいよ。
ユウキ:だから若手も最初からそのやり方をしたほうが絶対ええねん。もうベタな言い方やけど、ピカソなのよ。本当はめちゃくちゃ絵がキレイ。だから、ちゃんとキレイな絵が描けるようになってから、いくらでも崩したらええねん。
石田:本当は基礎が身に付いてからやのに、いきなり“
漫才をフリにした漫才”を考えてしまう若手が本当に多い。
ユウキ:もしも「このネタをどううまく見せるのか」考えるなら、まずは足腰を鍛えるじゃないけど、基礎をやったほうがいい。いま、結構大変なのがね、NON STYLEって若い世代に人気があるからさ。「ノンスタを見て芸人になりました」という若手もいる。とはいえ、NON STYLEもM-1の頃からネタが変わってきたからさ。1個のフリでボケを何個もやるやん。あれをマネしてくる人が多いのよ……。
石田:あ、そうなんですか。
ユウキ:でも、あれって“
高等テクニック”やねん。システムとして簡単に見えるのはわかるねん。でも、1個のフリで、あれだけのボケが同クオリティのやつなんて、なかなかでけへんのに。みんなやりたがるから。「まずは展開したほうがええんじゃないか」と俺は言うんだけど、「いや、ノンスタはやってますやん」みたいな感じで思われているんじゃないかと。ちゃうねん、あれは高等テクニックやねん。
石田:皆さん、じつは高等テクニックなんですよ(笑)。
ユウキ:あと千鳥のマネするヤツも多いねん。千鳥も、やっぱり独自のボケがあるやんか。フリがなくて、その個体で笑かすみたいな。それを若手がやりたがんねんけど、いや、ちゃうねんと。あれはもう、2人のことを知ったうえで……とかね。だから生徒たちには、今の段階では、まったく知らないお客さんに対して、まずはコミュニティを広げていかないとアカンから。ちゃんとフリがあって、ちゃんとオチがあるってことを、しっかり覚えてもらわないと。それをね、NON STYLEと千鳥が邪魔するわけですよ(笑)。だから、
石田には「これは簡単には出来ません」と言ってほしいんです!
石田:ウケるかー! そんなん、絶対にスベるよ(笑)。千鳥さんもNON STYLEも、関西で下積みをして、
漫才の基礎というものがわかったうえで、“漫才をフリにした漫才”をやっているんですよね。種明かしをすると、あれって、じつは同じフリでずっとウケ続けているのではなく、ある程度のクオリティのボケさえ出せば、それはどうでもよくなるんです。つまり、ボケ自体が面白いのではなく、あれをやり続けていることが面白い、という。
ユウキ:全体像ね。
石田:その関係性を見せているんです。
ユウキ:あれってNON STYLEのものであって、ほかの人がただマネしても面白くならないと思うんだけど。去年、「ハイスクールマンザイ」のWeb審査で、高校生のアマチュアが300組ぐらい出てたんだけど、ホンマにそればっかやねん。1個のフリで何回もボケるという。だから、それはちょっと難しいんだよって……。
石田:やっぱり、NON STYLEの漫才って、無駄を省いているので簡単に見えるんですよね。
ユウキ:簡単に見えるんだけど、それで笑わせるのは本当に難しいことだって理解してほしいね。
(※今回はココまで。次回、石田が例の事件の真相までぶっちゃける!?)
<取材・文/藤井敦年、撮影/林紘輝>
明治大学商学部卒業後、金融機関を経て、渋谷系ファッション雑誌『men’s egg』編集部員に。その後はフリーランスとして様々な雑誌や書籍・ムック・Webメディアで経験を積み、現在は紙・Webを問わない“二刀流”の編集記者。若者カルチャーから社会問題、芸能人などのエンタメ系まで幅広く取材する。X(旧Twitter):
@FujiiAtsutoshi