グローリー、おー、グローリー――フミ斎藤のプロレス読本#075【バンバン・ビガロ編エピソード10】
ほんとうはもうちょっと長いストーリーを“早送り”すると、ビガロはフロリダでジャニスさんという新しいガールフレンドと出逢った。
ジェニスさんはプロレスファンではなくて、ビガロがかつて著名なプロレスラーだったことも、一文なしになってしまった元億万長者だということも知らなかったけれど、頭のてっぺんに炎のタトゥーを彫った太った中年のバイカー――ありのままのスコット――を受け入れてくれた。
ジャニスさんをバイクの後ろに乗せたビガロは、ある日、ハイウェイで大事故を起こした。スピード違反。酔っぱらい運転。保険は未加入。バイクのナンバー(ライセンス・プレート)は期限切れ。もちろん、ハーレーは大破した。
ビガロのニュージャージー州の運転免許証、モーターサイクルの免許証はともに失効。裁判の費用を支払えないビガロにフロリダの裁判所はパブリック・ディフェンダー(国選弁護士)を用意してくれたが、ビガロは裁判を欠席した。
この事故でジャニスさんは重傷を負ったが、一命はとりとめた。ビガロもケガをしたが、肉体的な痛みはどうでもよかった。ポケットのなかにはいつも大量の鎮痛剤を放り込んであった。
それから2年間、ビガロとジャニスさんは、ジャニスさんが借りていた安アパートメントで仲よく、静かに暮らした。キッチンの電子レンジの上――いつでも手が届くところ――にはピストルが置かれていたが、それを使うことはなかった。
2007年1月19日、金曜の朝、ビガロはすやすやと眠ったまま帰らぬ人となった。警察の司法解剖の結果、死因は薬物のオーバードース(過剰摂取)と断定された。体内からは多量のコカイン、抗うつ剤、鎮痛薬、睡眠導入剤が検出された。45歳だった。
1週間後、ビガロの遺体はアズベリーパークに移送された。潮の香りが漂う大西洋岸のカトリック教会のまえでは数百台のハーレーとたくさんの友人たちがホームタウンのヒーローの帰還を待っていた。God bless Scott“Bam Bam”Bigelow.
※文中敬称略
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文/斎藤文彦 イラスト/おはつ1
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