スーパー・レザーのねぐらは池袋のビジネスホテル――フミ斎藤のプロレス読本#095【Tokyoガイジン編エピソード05】
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
199X年
TOKYOガイジンは30ドルと3000円のちがいをちゃんと知っている。フロリダのフォートローダーデールあたりに住んでいたら、ポケットのなかに30ドルも入れておけばそれなりに優雅な1日を過ごすことができる。
トーキョーでは3000円のキャッシュなんかあっというまにどこかへいってしまう。ジャパニーズ・ピープルは千円札を1ドル紙幣のように使う。
お金があったってなくなってホテルのなかでじっとしているわけにはいかない。スーパー・レザーはTOKYOガイジンである。
定宿のホテルは池袋の西口の“N”。都営浅草線・馬込駅のそばにねぐらをつくっていたこともあったが、改修工事のため“住人”は引っ越しをさせられた。
池袋は眠らない街だ。お酒が飲めて食事もできるリーズナブルな居酒屋がたくさんあって、1ブロックごとにコンビニエンスストアがある。スパニッシュをしゃべるストリート・ガールズがそこらじゅうに立っている。隠れ家にするには悪くないネイバーフッドだ。
スーパー・レザーのファイトマネーは――それはFMWの台所事情ではあるのだけれど――そんなに高いほうではない。プロレスラーになって13年がたった。WWEにいたころはグリーンのベレー帽をかぶって“コーポラル”マイク・カーシュナーというキャラクターを演じていた。
リングから離れていた時期があって、リングを恋しく感じた時間があった。もういちどプロレスをやってみようと決心したら、フロリダとトーキョーを行ったり来たりする生活がはじまった。仲間のザ・グラジエーターとホーレス・ボウダーも1年じゅうフロリダとトーキョーを往復している。
シリーズ興行とシリーズ興行のあいだにフォートローダーデールに帰っても、けっきょく10日間くらいしか家にはいられない。あまりあそこにはいないのに、やっぱりアパートメントの家賃だけは払わなければならないし、ありとあらゆる請求書類が郵便受けにたまっている。生きていくだけでもお金はかかる。
14歳と11歳になるふたりの息子たちは、お父さんがプロレスラーだということを誇りにしている。シングル・アゲインのマイクは、フロリダに帰ると週末だけ父親になる。ボーイズの母親は車で20分くらいの距離に住んでいるけれど、顔を合わすことはめったにない。
フットボールをはじめた男の子たちの体重はもう200ポンド近い。「こいつら、そのうちビッグ・ファッカーになっちまう」とマイク=スーパー・レザーは白髪まじりになってきたロングヘアをいじりながらため息をつく。
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