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定年後のパワーあふれる人材「熟戦力」はただのシニアと侮れない?

 厚生労働省の最新の調査によれば、平成28年の日本人の平均寿命は女性87.14歳、男性80.98歳で、いずれも過去最高を更新中。平27年に比べ女性が0.15歳、男性は0.23歳延びているそうだ。過去最高の更新は女性が4年連続、男性は5年連続。国際比較では男女とも香港に次いで世界2位となっている。いつの日か平均寿命が100歳という時代がくるかもしれない。

厚生労働省「平成28年簡易生命表」

厚生労働省「平成28年簡易生命表」より

 このように「人生100年時代」が視野に入ってきた昨今。気力・体力ともに充実している60代で定年を迎え、リタイアするようなライフスタイルは現実的ではないだろう。

 そんな状況のなか、「人材が足りない」企業と、「元気でまだまだ働きたい」定年後人材、双方のニーズがマッチして、互いに良い結果が生まれるケースが増えてきているという。いわゆる「熟戦力」人材の活用だ。

 この「熟戦力」とは読んで字のごとく、長年にわたって会社という組織で働き培った「経験」や「スキル」を活かし、実務担当の即戦力として新しい職場で活躍する、60代を中心とした定年後のパワーあふれる人材のことだ。

 そこで実際に「熟戦力」を受け入れている企業と、そこで働いている「熟戦力」人材の双方を取材。株式会社ツルハグループマーチャンダイジング・PB商品開発部管理グループの根本武氏と、この会社でプライベートブランド商品の品質管理に携わっている力石利生氏(69歳)に話を聞いてみた。

株式会社ツルハグループマーチャンダイジングの根本武氏(左)と「熟戦力」人材の力石利生氏(右)

「専門的な知識・経験、優れた協調性。人生の先輩として尊敬します」と語る根本氏


――まず根本さんにうかがいます。御社ではどのような人材を求めていたのですか?

根本 弊社のPB商品開発という部署で、商品開発や商品が正確に作られているかをチェックする専門の人材が必要でした。求めていたのは専門的で弊社にはいないタイプです。

――力石さんの実際の仕事ぶりはいかがでしょう。

根本 小売業がメインである私どもにとって、製造業の方の目というものは非常にありがたいです。何をチェックして、何を直してもらうか、まったく分からなかった中を二人三脚で進めています。工場で働いている人たちからも「力石さんは詳しいですね」との声をよく聞きます。

――そのほかに気づいた点は?

根本 年下の私が言うのも失礼ですが、年齢のわりにとてもお元気です。それから、周囲と常に敬語でコミュニケーションを取られる謙虚なところも非常に尊敬しています。協調性に関してはまったく問題はありません。

「専門的な知識・経験、優れた協調性。人生の先輩として尊敬します」と語る根本氏

キャリアを活かしつつ、常に新鮮な気持ちを心がけています(力石氏)


――続いては力石さんにうかがいます。こちらの会社で働くことになった経緯を教えてください。

力石 前の会社では雇用延長で65歳まで働いていました。そのあと完全に辞めて、しばらく九州の実家へ戻っていたのですが、キャリアを活かして何か出来ないかと思い、リクルートスタッフィングに登録しました。ただ単に仕事をするよりはと思い、離職中に自分の専門の品質管理の資格の1つであるISO審査員の資格を取りました。

――新しい職場で働く上で、心がけていることはありますか?

力石 いくら専門的な知識があっても、今までのキャリアとは環境もスタッフも違いますので「前はどうだった」「こうすべきではない」という言葉は禁物です。なにより自分も新鮮な気持ちで、相手の場面に合わせてチャレンジしていくことを心がけています。

――ところで、体力面での不安はございますか?

力石 自分では特に感じていません。もちろん就業先の企業さん次第ですが、チャンスがあればこれからも積極的に働いていきたいですね。大学の同級生は半分くらい働いていますから(笑)。

「キャリアを活かしつつ、常に新鮮な気持ちを心がけています」と語る力石氏

シニア世代の魅力は「専門性」「チーム力」「社会貢献力」(平田氏)


 今回、両者のマッチングに携わったのが、総合人材サービス会社・リクルートスタッフィング。先述の「熟戦力」を提唱し推進している同社の平田朗子氏に、具体的な現状や今後の展望について聞いた。

株式会社リクルートスタッフィング・エンゲージメント推進部の平田朗子氏

――まず最初に、定年後のシニア世代を取り巻く現状を教えてください。

平田 なにより健康寿命が飛躍的に伸びており、「まだまだ働きたい」「社会貢献をしたい」という人が増えてきています。弊社では60代の派遣の新規登録者数が10年間でおよそ5倍、新規契約数は3年間でおよそ4倍に増加しています。

――働き手としてのシニア世代の魅力とは何でしょうか?

平田 “チーム力”を持っている、ということがひとつ。長年、組織の中で働いて「会社で働く」ということに慣れている、理解していることは新しいキャリアにおいても非常に大きいと思います。それから“社会貢献力”。次の世代に伝えたい、つなげたいという意識が強いのもこの世代の方の特徴です。当然、長年働いた経験やスキルが大きな魅力であることは大前提です。

――これからの時代、働く側としては、どのようなことを意識すればいいですか?

平田 私どもがお手伝いさせていただいている登録者のみなさんに共通しているのは、組織でしっかり働いたスキル・能力があり、なにより実務経験があること。その上で、みなさん仕事に対する高い意識をお持ちで、早い段階から定年後のことも視野に入れ、自分ができることは何か、何をしたいのかをしっかり考え、それに向け行動に移していらっしゃいます。専門性の高いプロフェッショナルシニアを目指し、30代・40代のミドル世代のうちから自分自身と自分の仕事と向き合い、将来に備えておくことが必要になってくるでしょうね。

「シニア世代の魅力は『専門性』『チーム力』『社会貢献力』」と語る平田氏

――企業にとってシニア世代を雇用することのメリットは何でしょう?

平田 まずひとつは経験に基づく優れた専門性です。いわゆる“その道のプロ”を即戦力として受け入れることで、苦手だった分野、あまり知見のない分野の補完ができます。加えて大きいのが、先ほども申し上げた“チーム力”と“社会貢献力”です。まだまだ人事制度の壁は大きいと思いますが、これからの時代、柔軟性をもった優秀な人材を積極的かつ多様にご活用いただくことで、会社全体の組織力が活性化していくと思います。

 企業側も働く側も先入観を捨て、制度を上手に活用すれば、お互いにとって幸せな未来が待つことは間違いないだろう。今回取材を通じてわかったのは、企業と人材を結ぶ新しい働き方が生まれつつあるということ。新時代はもうすでに始まっているのだ。

<文/中村裕一 撮影/竹内志行 田子芙蓉>

提供/リクルートスタッフィング





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