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なぜ官僚の不正は立件できないのか? ノンフィクション作家・清武英利氏が語る「捜査機関の闇」

 5月9日、第2回大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション賞が発表され、読者賞に清武英利氏の『石つぶて 警視庁 二課刑事(でか)の残したもの』(講談社刊)が選ばれた。

 清武氏といえば、2011年に起きた「清武の乱」でその名を知った人も多いだろう。当時、読売巨人軍球団代表だった彼は、チーム編成や組織のコンプライアンスをめぐって読売新聞グループ本社代表取締役主筆の「ナベツネ」こと、渡邉恒雄氏と対立。最終的に、清武氏は電撃解任される事態に至ったが、当時、渡邉氏が独裁的に君臨する読売新聞グループのお家騒動としてセンセーショナルに報じられた。

 その後、清武氏は元読売新聞社会部記者としての矜持を胸に作家活動に転じる。記者時代から追い続けていた1997年の「山一證券自主廃業」の裏側に光を照射した『しんがり 山一證券 最後の12人』(講談社刊・2013年)は話題となったが、地道な取材に基づく数多くの力作を定期的に発表してきた。

清武英利

清武氏が3年間にわたる取材を費やした労作『石つぶて 警視庁 二課刑事の残したもの』(講談社刊・1800円+税)。現役の捜査官1名を除き、登場人物はすべて実名で登場している 撮影/日刊SPA!取材班

「日本の社会が、以前に比べて透明に、そしてきれいになったと思っている人がどれだけいるでしょうか。少なくとも私や古い刑事たちはそうは思わない――」

 受賞作では、霞が関の官僚と一介の刑事の戦いに迫っているが、「モリカケ問題」や防衛省の日報問題など、官僚の不正が続々と噴出する今、清武氏の言葉は、警視庁を担当していた社会部記者のものだけに重みがある。

「しかし現実には、汚職や公務員犯罪の摘発は激減している。正義が行われず、巨悪を眠らせているのではないか、という疑念が刑事たちの中にもある。問題は、現実との間に明らかな矛盾や落差があるのに、市民が半ば諦め、無関心になっていることです。嘘つき官僚や隠蔽官僚の横行は、市民の無関心のツケでもあると思います。

 同時に、官僚社会に対する信頼は落ちるところまで落ちてしまった。かつて大蔵、日銀が接待汚職で揺れた1998年でも、腐敗しているのは一部の官僚だという認識があり、大蔵省を財務省と金融庁に分割して再生を託した経緯がある。しかし、今は頭から腐っている。

 これは私のいた読売新聞社にも当てはまることですが、日本の組織に“ヒラメ型”の人材が増え、それを恥ずかしいと思わない空気に組織が包まれている。ヒラメという魚は海の底にいて、いつも上を見ていますよね。官民問わず、日本の組織人も、権力者や上司の顔色ばかりを窺うようになってきている」

 清武氏の言う“ヒラメ”とは、今や流行語になった「忖度」と同義だ。

 そして、忖度が蔓延した霞が関は文書改ざんにまで手を染めたが、関わった官僚たちは刑事事件の摘発から免れそうだという。大阪地検特捜部が動いているものの、司法記者は懐疑的だ。実際、特捜は、佐川宣寿・前国税庁長官ら、財務官僚の立件を見送る姿勢を明らかにした。

 法の適用が難しいこともあるが、見過ごせないのはベテランの記者たちが、その背景として「官邸と気脈を通じた法務官僚の存在や、官邸への忖度」を挙げていることだ。

「それは汚職摘発の激減と、源流を同じくしている。摘発が少ないのは、着手に過度に慎重だったり、及び腰だったりする警察幹部や検察官が増えているからではないか。彼らはしばしばこう言う。『相手が相手だけに、もっと明確な証拠を持ってこい』『これは事件の筋が悪い』と。

 汚職や疑惑事件の捜査は、業界の怪しげな噂や、公にできないソースからの情報が端緒になる場合が多い。かつての警視庁捜査二課の刑事たちは、国会議員などの権力者から、不動産ブローカー、談合屋など裏社会の住人、さらに自ら逮捕した元・犯罪者などに接近し、親しく付き合う中で、摘発に繋がる情報を入手していた。

 ところが管理化が進んだ今、こうした清濁併せ持つような捜査手法は、警察幹部からは問題視され、情報収集も捜査キャリアのコントロール下にある」

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汚職事件の検挙数は激減している

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