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「キモイ、おっさん、死ね」八王子の女子高生から突然の宣戦布告――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第1話>

これはもう戦争である。宣戦布告である

これ生理用品じゃねえか!  なんで生理用品がお茶菓子として出てくんだよ! 落ち着いてマジマジと眺めてみるのだけど、まあ、確かにちょっと高級なお菓子と間違えないとも言い切れない。すごく焦っていたら間違えたりもするかもしれない。これがキッチンの奥底に隠されていたという事実が一般的なことなのか分からないが、まあ、あり得ることなのかもしれない。ほとんど見たことのないお父さんが間違えることも、ありえるのかもしれない。 しかし、これをどうするのが正解なのだろうか。ロリエやないかい! とお父さんの頭をバシンとやれたらどんなに楽かと思うけど、そういうわけにもいかない。そもそもお父さんは気づいているのか。 視線を送るとお父さんはニコニコ笑っている。気づいていないようだ。むしろ気づいた上でのニコニコだったら怖い。それでも僕の様子がおかしいことには気が付いたようで確認するようにテーブルの上を見た。そしてみるみる表情を変える。気づいたようだ。助かった。これで生理用品を引っ込めてもらえる。安堵した。 しかしながら、お父さんは自らが生理用品を客人に出したという事実を闇に葬ろうと決めたらしく、これはお茶菓子だよと言わんばかりに気づかないふりをしだした。張り付いた笑顔を見せる。そっちを選択したか。そっちは修羅の道だぞ。これはもう戦争である。宣戦布告である。互いに気づかないふりをし、張り付いた笑顔で応戦する状態となった。 「ただいまー!」 悪いことに、そこに娘さんとお母さんが意気揚々と帰ってきた。 帰って来るや否や、リビングに入ってくる。そこには山盛りのロリエを前にニヤニヤしている父親と家庭教師。大絶叫がこだました。屋根上の雪が落ちてくると思うほどの絶叫だった。 中学生と言えば敏感な年代だ。性的にデリケートな部分を見られ、もう何も信じられないといった様子で泣きじゃくる娘さんに「ごめんよう、おとうさん全然わからなくて、お茶菓子出そうと思ったんだ」と弁明していたが、娘さんは聞く耳を持たず、暴れながら叫んだ。 「おっさんきもい、死ね」 いつもはそんなことを言う子ではなかった。これにはお父さんもかなりショックだったようで、気が動転していた。たぶん、「おっさん」と言われたことも「キモい」といわれたことも、「死ね」と言われたことも初めてだったのだと思う。 「そんなこと言われたらお父さん悲しいよ」 悲しそうな顔が僕の胸を締め付けた。それでも娘は泣きじゃくって言った。 「おっさんきもい、死ね」 念を押して言うのだからよほどのことだったに違いない。 いつの間にかまた雪が降り始めていた。真っ暗な帰り道が雪で照らされる。誰が悪かったのだろうか、ロリエが悪かったのだろうか。軒先に佇む白い雪の塊がロリエのように見えた。空を見上げると舞い落ちる雪の粒が満点の星空のようだった。
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同じだったロリエとキオシ
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pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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