更新日:2018年08月07日 16:08
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エアポート投稿おじさんに、雲の上から微笑みかける今別府直之――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第3話>

「誰?」

いよいよ飛行機は鹿児島空港へと着陸した。機内アナウンスで携帯の電源を入れても良いと言われる。すぐにおっさんの機内モードを解除してあげた。すぐにメッセージが届いたようだった。 「無事に産まれたみたいです! 女の子!」 おっさんが大きな声を出した。 「よかったですね。返事のメッセージ打ちましょうか?」 そう申し出ると、おっさんはこう言った。 「そうですね、じゃあ、“今から向かう”と打ってください」 そう言ってスマホを差し出そうとしたが、一瞬考えなおしてそれをひっこめた。 「やっぱり自分で打ってみます」 「そうですね、それがいいと思います」 降機待ちの列が機内通路に形成される。その列におっさんと共に並びながらおぼつかない手つきを見守る。悪戦苦闘しているが先ほどより少ししなやかに見えた。そうこうしていると、列の前の乗客が動き出していよいよ出口へと歩き出す順番がやってきた。 「できた!」 そう言ったおっさんの手元のスマホを見る。 「今から向かいます」 と打ったつもりが、変換の履歴が悪さしたみたいで、 「今別府直之向かいます」 と燦然とトーク画面に表示されていた。向かわれても困るだろ。雲の上で助けてくれた今別府さんでもさすがにそこまではしてくれないと思う。 すぐに奥さんかお義母さんから返事が来ていて 「誰?」 と表示されていた。そりゃそうだ。 おっさんと別れ、空港内を独りで歩く。大きな窓から先ほど乗ってきた飛行機が見えた。悠然と翼を広げるその姿は、とても頼もしかった。青い空に今別府直之さんの姿が見えたような気がし、また飛行機に乗るのが少しだけ楽しみになった。 【pato】 テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。ブログ「多目的トイレ」 twitter(@pato_numeri) (ロゴ/マミヤ狂四郎)
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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