更新日:2018年08月14日 16:11
ライフ

朝のパチンコ店で行われた、生死をかけたくじ引きと“絆の6”――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第4話>

サモハンの“粋な”はからいによりメロさんは……

駅前の華やかな店などは、この抽選も華やかでパソコンを駆使した多彩な演出のものだったりするのだが、この店はしょぼくれているので、店員が作成した手製のクジをひくことになっていた。言うなればくじ引きだ。 そのくじ引きで「11番」をひいたら死ぬ、なんてずいぶん思い切ったことを言うもんだなあと思ったが、メロさんにその気がないことはすぐに分かった。そう、そんな番号が出るはずがないのだ。 この店はどんなに多くても8人か9人しか並ばないのである。抽選直前の客の数を見て店員がクジを仕込むので、どう頑張ってもその番号は9番までしか存在しないのだ。どうやっても11番が出るはずもない、そんなメロさんのしたたかな打算が十分に読み取れた。そういう男なのである。 この日のこの騒動はメロさんの打算的な宣言により収束することとなったが、本番はその次の日だった。 いつもよりやや遅めに開店待ちの行列に並びに行くと、見たことない巨漢のおばさんが二人、行列のヌシみたいな顔をして並んでいた。全身をキティグッズで包んだ謎のおばさん二人は、どうやらサモハンの知り合いらしかった。 つまり、サモハンは幻の11番を作り出すため、知り合いのキティおばさんを助っ人として連れてきたのである。それも二人も。そこまでやるか。 キティおばさんたちは朝早くから連れてこられて眠いのか、活動レベルが低いものの、確かに行列に並んでいた。なんか魔女みたいな細長いタバコを吸っていたのが印象的だった。そして、数えてみると、僕を入れて確かに11人、行列に並んでいた。 「ついにこの世に存在しないはずの11番が出現したぜ」 と言ってはいなかったけど言いたげな感じでサモハンは不敵に笑っていた。そしてメロさんの表情から笑顔が消えた。 「それでは抽選を始めます!」 なに喰ったらそうなるんだよと疑いたくなるほど不自然にハツラツとした店員が店の中から出てきた。手には手作りのクジを持っている。その枚数はしっかりと11枚あった。 “11枚ある” キティおばさん以外の並んでいるメンツ全員がそう思った。これで少なくとも1/11の確率でメロさんが死ぬことになるのだ。まさか本当に死ぬとは思わないが、11番をひいて死ななかったことでメロさんが大人しくなるだろう、死ぬ死ぬ詐欺をしなくなるだろう、そんな狙いが確かにあった。 「おれ、最後にするわ」 メロさんは先頭付近に並んでいたが、急に列から離れ、僕の後ろ、最後尾に並んだ。おそらく、11番が入っている状態でクジをひくより、自分の順番が来るまでに11番がひかれることに賭けたのだと思う。その運を他人に預けることにしたのだ。 列の先頭から順にクジをひいていく。みんなこれがただの入店順番を決める抽選でないことは重々承知していたらしく、ひいた傍から自分の番号を宣言しだした。 「9番!」 「5番!」 どんどん列が消化されていく。 「1番!」 「2番!」 キティおばさんは二人で1番と2番というワンツーを決めた。いよいよ僕とメロさんを残すのみである。まだ11番は出ていない。完全にメロさんの狙いが外れた形だ。 クジを持った店員の前に歩み寄る。手には2枚のクジがあり、トランプのババ抜きのようにしてこちらに差し出されている。このどちらかがメロさんが死ぬ11番で、どちらかがメロさんが死なない番号なのである。胸がドキドキしてきた。 僕がここで11番以外をひけば、必然的にメロさんが11番となる。つまり死である。確率は50%。僕はバジリスク絆を打ちに来ただけなのに、まさか人の生死に関わる闇のゲームに巻き込まれるとは思わなかった。 「いったれ! やったれ!」 サモハンが声をあげる。 「いけいけー!」 訳も分からずキティおばさんも声をあげる。魔女みたいなタバコを吸っていた。 明らかに僕が11番以外をひくことを望んでいる。メロさんの顔を見ると、ねっとりと縋るような表情だった。声に出さなくとも11番をひいてくれと言っているようだった。 僕の気持ちはどっちだろう。メロさんがもし本気で死ぬと言っているのならここで僕が11番をひくべきではない。引導を渡してやるべきだ。ただ、この表情を見ているとメロさんは生きたがっている、そう思えるのだ。ならばここで僕が11番をひくべきだ。メロさんに生きろ! と言うべきだ。こんな場末のパチンコ屋、開店待ちの行列で、一人の人間の生と死を賭けた壮大なストーリーが展開されているとは誰も思うまい。 そして、ついに僕がクジをひいた。 ゆっくりとクジを開くと、そこには「6番」と書かれていた。 「6番です」 わっ、とサモハンとキティおばさんが湧きたった。同時に、メロさんが崩れ落ちた。メロさんの死が決まった瞬間だった。朝から何やってんだ、僕らは。 「おら、早くひけよ、デスイレブンをよ」 と言ってはいなかったけど、言いたげな顔をしていたサモハン。他のメンツに見守られてメロさんが最後のクジをひく。その時、横にいた僕にだけ聞こえるほどの小さな声でメロさんが呟いた。
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僕たちは絆に囲まれながら、おもしろきこともなき世を生きていく
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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