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伝説のイカ天バンドたちが30年前を振り返る「出演にはリスキーな側面も…」

 SNSもない時代だ。情報に飢えたファンは番組を熱心に観続ける。番組に出演したバンドは、すぐさまライブ動員が飛躍的に増えた。都内はもちろんのこと、オンエアされている地域ではソールドアウトの連続だったという。 「ただ、そうじゃないバンドもなかにはありましたね。というも、審査はガチでしたから。吉田健さんを筆頭に結構キツいことを言われると、バンドの評価がガタ落ちして動員も下がるんです。だから出る側には、実はリスキーな側面もあったんですよ。そこにいくと『GLAY』なんかはワイプされて審査員にも酷評されたけど、そのことで奮起してあれだけビッグな存在になった。すごいですよね、ホントに。いろんなドラマがある」(石川)  イカ天というムーブメントは、音楽的共通項がほとんどないのが特徴である。だが横の連帯感は強く、バンド同士は非常に仲がよかった。
マユタン

マサ子さんのマユタンは静かに当時を振り返りつつ、今の活動についても語ってくれた

「キャラ的にもまったく被っていなかったからこそ、仲よくやれたのかもしれないな。イベントとかで一緒になると、みんなでワイワイ楽しく騒いでいる感じでしたね。あっ、そうそう! 『スイマーズ』のメンバーと『NORMA JEAN』のメンバーは結婚したんですよ。当時からつき合っていたんですけどね。私の同世代の女性で今もバンドを続けている人って、ほとんどいないんですよ。結婚したり子供を産んだりすると、やっぱりどうしてもそっちが中心になりますからね。私はそういう家庭的なことに無縁だったから、今でも音楽を続けていると思うんですけど(笑)」(マユタン)  番組には毎週10バンドが出演した。これらを1人で決めていたのがジャクソン井口氏だった。作業は徹夜が続いた。編集作業や会議の合間を縫って、送られてきたビデオテープを一気に100バンドほどチェックしていたという。 「演奏が巧いかどうかよりも、大事なのはインパクト。ジャンルなんて関係なかった。あと番組を盛り上げるために、イカ天キングが5週目勝ち抜きに挑むとき……つまりグランドイカ天キングが決まるときは、あえて強敵をぶつけるようにしたね。本音を言うとさ、90年の正月に武道館でイベントをやって番組を終わらせたかったの。だけど、もうその頃にはイカ天が恐竜みたいな番組になっていたから無理だった。流行語大賞も獲ってしまったしね。番組も後半に入ると、なんだか自分が考えていたのと違う方向に進み始めて。業界関係者がやって来てコソコソやっているしさ。番組は1年10か月続いたけど、最初のハチャメチャなエネルギーはせいぜい1年くらいしか持たなかったと思うよ」(ジャクソン)

夭折したイカ天アーティストたち

 マサ子さんはキテレツな存在感の姉妹ボーカルで注目を集めたが、マユタンの姉・サブリナさんは’94年に急逝している。また、霊感タレントとしても活躍した「remote」の池田貴族さんや、「龍巻のピー」という愛称で親しまれた「AURA」のPIEさんもすでにこの世にはいない。映画『馬の骨』制作にあたり、桐生は審査員だった中島啓江さん、内藤陳さん、ラッシャー木村さんなどへの出演オファーを考えたというが、いずれも故人であることを知り愕然としたという。 「結局、これが30年の時間が流れた証でもあるんです。バンドとか関係なく、50歳になれば誰でも身体に調子の悪いところはひとつかふたつ出てくるのは当然の話。光と影じゃないけど、面白おかしいだけの人生なんてありえないですよ」(桐生) 「世の中、永遠に続くものなんてないから。絶対なんて存在しないから……。極端な話、ステージに立っている人をまた観たいと思っても、そのときは死んじゃっているかもしれないじゃないですか。私はそのことをわかっているので、ステージに立つときは『これは1回こっきりの出来事なんだ』って自分に言い聞かせているんです。もちろん他の人のライブを観るときも、同じ気持ちでいますし。今度のライブも、映像では味わえないナマならではの体験を楽しんでほしいと思っています」(マユタン)  ここで触れられた「今度のライブ」とは、10月8日に行われる「イカ天30周年記念スペシャル『にしあらイカ天』」のこと。今回登場した4人のほか、「イエロー太陽’s」、「BELLETS」、和嶋慎治(from 人間椅子)、「Rama Amoeba」(ex.マルコシアス・バンプ)、宮尾すすむと日本の社長、和久田理人(ex.スイマーズ)、氏神一番、「アンダーテイカー」、「中学生日記」、「THE KIDS」、「パニックインザズー」、「GUEEN」、「ミンカパノピカ」など錚々たるメンバーが出演する。 「30年ぶりの同窓会みたいに昔が懐かしいという人にも来てほしいけど、私としては当時を知らない若い人たちにも来てほしいな。イカ天は単なる番組じゃなくて、“現象”だったし、“カルチャー”でしたから。平成の最後に、みんなで集まりたいです」(マユタン)  ひょっとしたら10月8日は伝説に触れることができるのかもしれない。 取材・文/小野田衛 長谷川大祐(SPA!本誌)
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