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吹きすさぶ台風の中、混浴風呂を目指したおっさん達の夢の跡――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第12話>

嵐が吹き荒れる混浴風呂に向かうと、そこには……

 混浴へと向かう道中、一行の機嫌はすこぶる良かった。足取りも口調も軽い。 「やはり精神論ですわ」 「台風はエロい」 「エロい女が混浴にくるぞ!」 「いきなりチンポ握ってきたらどうする?」  その会話は何一つ理論的ではないものだった。  混浴のある温泉施設に到着すると、風雨はさらに激しくなった。嵐ははっきりとした悪意を持っておっさんどもに降り注いでいた。駐車場から施設まで数分の移動でもグッショリと濡れてしまうことになった。  施設の入り口には老婆がいて、そこで入浴料と貸しタオル料を払ってタオルを受け取った。 「温泉までまだ歩くから傘を貸してやる」  老婆はそう言って傘を貸してくれた。  温泉施設内を流れる川は茶色の濁流となって荒ぶっていた。普段は綺麗で大人しい清流で、温泉客を和ませているのだろう。しかし今はただの濁流だ。全く安らがない。しかし、この先には約束の地があるだ。混浴が、混浴露天風呂があるのである。エロくなったギャルたちがお湯に浸かっているのである。  歩きながら、自分たちの中での緊張感みたいなものが高まるのを感じた。それはまるで張り詰めた糸のようで、このまま緊張が高まり続けたらはちきれてしまうんじゃないかと思うほどだった。  何か言葉を発しなければいけない。緊張を和らげなければならない。そう思った。 「いきなりチンポ掴まれたらどうしよう!」  念を押すように言ったその言葉に答えはなかった。けれども、みんな反応しないだけで似たようなことを考えていたはずである。  いよいよ脱衣所へと到達した。そこでまた確認するように話し合った。 「こういった混浴温泉では、通称“ワニ”と呼ばれるおっさんが多数いる。いい位置とか取り合いになると思うから負けないように」  混浴において、女性が来るまで水の中でじっと待ち構え、獲物が来るとスーッと良いポジションに移動するおっさんが多いらしい。その姿から“ワニ”と称されるようだが、そういったおっさんに負けてはならない、とのことだった。 「なあに、おっさん度では負けねえよ」  我々は“台風ハイ”であった。根拠のない自信に満ち溢れ、よく分からないことを言っていた。これは“台風ハイ”に混じって“混浴ハイ”でもあるのかもしれない。とにかくよく分からない陽気な感情が沸き起こった。 「ワニとなってお湯に浸かりすぎて体が夏になったらどうしよう」  もう訳の分からないことを言い合っていた。 「いくか」  何個かの普通の風呂を通り抜けた。この部分は混浴ではなく、男女別になっているが、その先の露天風呂で男女が一つになり、混浴となる。約束の地である。  薄暗い建物内に激しい雨音が響き渡っている。その先に明かりが見えた。ついにあそこが露天風呂、すなわち混浴である。張り裂けそうなほどに胸が高鳴った。 「いきましょう」  そう言った友人の顔は悟りを開いていて、三蔵法師のようだった。  おっさんどもは眩い光に包まれた。嵐といえども外の光は眩しく明るい。その先が混浴と考えると実際の明るさ以上に眩く思えた。 「ついに混浴にやってきた!」  そう言いながら露天へと飛び出した。ついにである。そして、そこには……!  誰もいなかった。  ギャルもワニも従業員すらも、誰もいなかった。石庭のように作られた露天風呂がそこにあって、激しい風と雨だけが、まるで誰かを笑っているかのように荒れ狂っていた。いや、言い直した方がいい。まるで我々を笑っているかのように荒れ狂っていた。  うすうす分かっていたことだった。うっすらと理解していたことだった。こうなんじゃないかって。ただ実際に目の前に現実としてその光景が広がっていると、妙に寂しく、悲しいものだった。 「いきなりチンポ……」 「もう言うな!」  怒られた。
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それでもそこは天竺だった
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