雑学

ウンコを漏らしたことのない奴に、人の痛みを知ることはできない――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第10話>

 昭和は過ぎ、平成も終わりゆくこの頃。かつて権勢を誇った“おっさん”は、もういない。かといって、エアポートで自撮りを投稿したり、ちょっと気持ちを込めて長いLINEを送ったり、港区ではしゃぐことも許されない。おっさんであること自体が、逃れられない咎なのか。おっさんは一体、何回死ぬべきなのか――伝説のテキストサイト管理人patoが、その狂気の筆致と異端の文才で綴る連載、スタート!

patoの「おっさんは二度死ぬ」【第10話】うんこを漏らしたことない奴を信頼しない

 僕はうんこを漏らしたことないヤツを信頼しない。

 もちろん誰しもがオムツをつけていたような子供時代にはうんこ漏らしを経験しているだろうし、ひょっとしたら学校でうんこをすることが重罪とされ、重い十字架を背負うことになる小学校時代など、うんこ漏らしを経験しているかもしれない。

 けれども、僕が言いたいのはそんなヤワなうんこ漏らしではない。別に下痢に近い柔らかいうんこという意味ではない。精神的にヤワなうんこ漏らしという意味だ。

 成人を超え、立派な大人となった後に漏らすうんこ、これが重大であり、必要なのである。分別のある大人となり、社会との関りや大人としてのプライドを有する中でのうんこ漏らし、これがない人間を心から信頼したりはしない。

 表面上は信頼したふりをするかもしれないが、心の奥底では疑っている。こいつはいつか裏切る、なにせうんこを漏らしたことがないからだ、と。

 そんなことを言うと、ちょっと頭がおかしいんじゃないかという反応を貰うことが多々あるが、逆に言わせてもらうと、なぜうんこを漏らしたこともないような薄っぺらい人間を心の底から信頼できるのか、そう思えて仕方がないのだ。

 それは本当の悲しみを知らないということである。挫折や、苦悩、嗚咽、おならで散らす、ちょっとだけコンニチワ! そういった地獄の経験を経ない人間、こんなものは精神的に成熟していない金持ちのボンボンと同じ、大女優の次男みたいなものだ。

 ただ、僕も最初からそんな思想ではなかった。血気盛んで若かりし頃は、やはりいい年してうんこを漏らす大人なんていないだろうと思っていたし、いたとしてもそんなやつ恥ずかしくて生きていけないだろう、まさかいないだろう、と思っていた。早い話、うんこ漏らしを蔑んで見ていたのだ。

 同時に、自分の胃腸の弱さも分かっていた。

 ちょっとした緊張感のある場面や、本屋など、必ずと言っていいほどお腹が痛くなり、下痢をした。いつも漏らすか漏らさないかのせめぎあいの中で生きていた。

 いつ漏らしてもおかしくなかったが、なんとか強い精神力でギリギリのところを走っていた。早い話、漏らすような大人は終わっているという思想と、漏らしやすい体質との狭間で苦しんでいたのだ。

 そんな考えを変えてくれたのはヤスノリさんだった。

 僕の生まれ育った町は小さな港町で、娯楽といえるものはパチンコ屋くらいしかなかった。驚くかもしれないが、24時間営業のコンビニすらなかったのだ。そんな街におしゃれなカフェができる、という噂が駆け巡った。雑貨屋も併設する、いかにも若い女が好きそうなカフェだ。病んだウサギみたいなのがイメージキャラだったように思う。

 建設工事が始まると、一気に街中の噂に火が付いた。

 高校生だった僕はさしてその雑貨屋に興味はなかったが、同じクラスの狙っていた女の子(巨乳)が「今度できるカフェ、いってみたーい」「でも混んでそうじゃない」なんて乳を振るわせて会話をしており、思いっきりそれを聞いてしまったのだ。

 ちょっと短絡的で申し訳ないが、その噂の的のおしゃれカフェに誘えば、なんやかんやあって最終的におっぱいを揉めるのではないか、そう思ったのだ。

 血気盛んな高校生男子だ。それくらい考えても不思議ではない。ならば、なんとしてもカフェに誘うべきではないか、そう考えるのはあまりに自然なことだった。

 いろいろとリサーチしてみると、オープン日が分かった。ただし、あまりに街中の期待が高まるのを感じたのか、オープン当日は混雑が予想されるため、前日に整理券を配る、とのことだった。

 なるほど、つまりその整理券をゲットし、それをひらひらさせながら誘えば色々あっておっぱいが揉めるんだ、そう思った。

 早速、整理券配布日に貰いに行こうと思ったが、ちょっと待てよと思った。あまりに人が多すぎて整理券が貰えなかったら元も子もないだろう、そう思ったのだ。それくらいの熱気や期待の高まりを感じていたのだ。だったら確実に整理券を手に入れられるであろう、前日夜から並ぶべきだ。そう決意した。

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おしゃれカフェに現れた男、ヤスノリ

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