雑学

吹きすさぶ台風の中、混浴風呂を目指したおっさん達の夢の跡――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第12話>



それでもそこは天竺だった


 激しい雨は、露天風呂の水面に綺麗な波紋を作り出していた。波紋と波紋が重なり、そこだけが少し際立った輪郭となって新たな紋様を作り出していた。その美しい光景が、よりいっそうの寂しさを演出しているように思えた。

「まだ終わらんよ、まだ終わらん。入って待っていればきっとギャルが来る」

 沙悟浄はそう言い、露天風呂へと入り、やがてワニとなった。

「きっとギャルはくる」

 猪八戒もそう言い、ワニとなった。

 ここからが本当の地獄だった。私もワニとなってギャルの到来を待つべく、湯船に漬かったが、水かと思うほどに冷たかったのだ。

 普段はここに温泉が注ぎ込み温かい風呂を実現していると思うが、警報が出るレベルの大雨がすっかり温泉を薄めてしまっていた。露天のお湯に尋常じゃないレベルの雨が混ざり、水だった。はっきり言ってしまえば、温水プールよりやや冷たい程度の水温だった。

 激しく打ち付ける雨と風は容赦なく体温を奪う。普通なら湯から露出してる部分もカーバーできるほどの温かいお湯であるはずだが、いまや水だ。どんどん寒くなってくる。

「体が冬になる!」

 よくよく考えると、石庭のように作られた露天風呂は温かいから露天風呂なのである。しかし、このように冷たい水の場合、ただ庭の池なのである。庭の池に浸かるおっさん、まぎれもなくそれであった。

「ギャルがくるかもしれないじゃないか」

「エロい女が」

 来るわけがない。女は庭の池には入らない。それは分かっていたけれども、台風ハイがギャルを血迷わせる可能性が僅かながらあるかもしれない。か細い理にすがるしかなかった。

 20分は待っただろうか。ギャルどころか、従業員すら近づいてこない。本当にここは日本庭園の池なんじゃないだろうかと思えてきた。急に冷静になった。

「こんな水にギャルが入りに来るはずないだろ。バカらしい」

 そういって湯、いや水から出ようとすると、一人がまるでUFOでも目撃したかのような表情で言った。

「いま、女湯ののれんが動いた!」

 女湯からこの混浴へと合流する場所に設置されたのれん、それが動いたというのだ。つまり、女が入ってくる可能性が高い。こんな酷い状況で入ってくる女だ。きっとエロい。いきなりチンポを握ってくる。息を殺して待った。

 さらに30分は水の中で待っただろうか。よく見たら風でのれんが揺れていた。

 結局、エロいギャルどころか、誰も来なかった。ワニすらこなかったのである。ついに諦め、風呂から上がり、服を着てから気付いた。台風はエロくないのである。特にとりたてて台風がエロいというわけではないのである。

「台風がエロいというのは幻想だった」

「冷静に考えてこんな嵐じゃあエロい女も来ない」

「台風はエロくない!」

 混浴に入るつもりだったエロい女が、台風によって混浴を断念する。その事実だけで台風はエロくないと言い切れる。目が覚めたおっさんどもは、ロビーに置かれた椅子に座り、借りていた傘を老婆に返しながら、そう言った。どうかしていたのである。こんな嵐の中、ギャルは来ない。

「もうそろそろ帰りましょうか」

 台風はエロくなかった。混浴は何もなかった。その失意は我々を冷静にさせてくれた。いきなりチンポは握られない。そんなことはあってはならない。

 玄関へと向かうと、ドアのところで明らかにエロそうなギャル二人とすれ違った。完全に混浴に入りに来ているギャルだった。完全にニアミスだ。

「やはり台風はエロいな」

「また来よう」

「次こそはいきなりチンポ握られよう」

 風呂上りとは思えないほど冷えた体に、激しい風雨が打ち付ける。それでもやはり思ったのだ。

「台風はエロい」

 そう呟きながら一向は天竺を後にした。

【pato】
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。ブログ「多目的トイレ」 twitter(@pato_numeri

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