雑学

ラジオのハガキ職人をブチ切れさせた僕の教訓――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第11話>

 昭和は過ぎ、平成も終わりゆくこの頃。かつて権勢を誇った“おっさん”は、もういない。かといって、エアポートで自撮りを投稿したり、ちょっと気持ちを込めて長いLINEを送ったり、港区ではしゃぐことも許されない。おっさんであること自体が、逃れられない咎なのか。おっさんは一体、何回死ぬべきなのか——伝説のテキストサイト管理人patoが、その狂気の筆致と異端の文才で綴る連載、スタート!

patoの「おっさんは二度死ぬ」【第11話】恋するカムチャツカ半島

「さあ、“恋するカムチャツカ半島”さんからのリクエストでサザンオールスターズ、『エロティカ・セブン』」

 軽快な曲紹介が銀色の携帯ラジオから聞こえてきた。それに続いて魅惑的なサザンオールスターズの楽曲が流れ始める。

 若かった頃の僕はラジオに夢中で、ローカルFM局の夕方の番組を夢中で聴いていた。その番組は地方の情報をとてもよく扱っていた。

「今週末、日曜日は〇〇町の田んぼで泥んこ遊び大会があります。奮ってご参加ください」

 このレベルの本当にこれを聴いて泥んこ大会に駆け付ける人がいるのだろうかと疑問に思うローカル情報が多く、それが新鮮だったし、なんだかラジオDJが身近にいるような錯覚を覚え、楽しんで聴いていた。

 そういった情報コーナーも楽しいものだったが、それ以上に楽しいコーナーがあった。それが「リスナーからのメッセージコーナー」だった。

 今でこそこういったリスナー参加型のコーナーは広くネットで募るのが普通で、送る方法もメールなどのネットを利用した手軽なものだが、当時はそんなものは普及しておらず、もっぱらハガキかFAXであった。あまり手軽ではない手段しか存在しなかった。

 当時、このコーナーでメッセージが読まれることが番組ファンの間ではちょっとしたステータスだった。

「くそっ、また“恋するカムチャツカ半島”かよ」

 銀色の携帯ラジオの前でそう呟いた。

 このメッセージコーナーは時間にして15分くらいの尺で、だいたい4つか5つくらいのメッセージが読まれることになっていた。しかしながら、なかなか人気のあるコーナーなのでメッセージが殺到しているらしく、かなり競争率が高かった。

 正確な数字は分からないが、感覚的に300か400は来てるんじゃないかという感じで、その中から4つなのだから、おおよそ100倍の競争率である。まあ、普通に考えてそうそう読まれるものではない、それは理解していた。

 それでも何とか読んでほしくて、こういうメッセージなら読まれるんじゃないか? もっと媚びへつらったら読まれるんじゃないか、ちょっとタイムリーな時事ネタも入れてみるか、もしかしたら読まれないのはリクエスト曲が悪いからじゃないだろうか、そんなことを考えながら手を変え品を変えメッセージを送り続けたが、その願いは叶わなかった。

 そんな中にあって、ラジオネーム「恋するカムチャツカ半島」は強かった。どんなやつなのか知らないが、カムチャツカ半島は毎週のようにメッセージを読まれるのだ。抜きんでて面白いというわけでもない普通のメッセージだったが、なぜか毎週のように読まれていた。

「今週は雨ばかりですね、雨が続くとうちの猫からはドブの臭いがします。どうしてでしょう? リクエスト曲はWANDSの『もっと強く抱きしめたなら』でお願いします」

 こんなもんである。猫の臭いなんて知ったこっちゃない。ドブで遊んでたんだろ。これだったら僕のメッセージの方が、幾分面白いはずだ。その時に僕が送ったメッセージがこんなものだ。

「尻子玉って何色の玉なんでしょうね。僕は玉虫色なんだと思います。雑貨屋で綺麗なガラス球を見てるとうっとりと尻子玉を思い出してしまいます。リクエスト曲はとんねるずの『嵐のマッチョマン』でお願いします」

 完全にセンスの塊である。これが読まれないのがおかしいのだ。つくづく、メッセージを選んでるディレクターのセンスが悪いとしか思えない。

 そうやって来る日も来る日も番組にメッセージを送るが、読まれるのは恋するカムチャツカ半島のメッセージばかり。激しく下唇を噛みしめる日々が続いた。もう何が読まれるべきメッセージで何が読まれないメッセージなのか分からなくなっていた。

次のページ 
その彼に、まさかの弟子入りを果たした僕

1
2
3





おすすめ記事