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吹きすさぶ台風の中、混浴風呂を目指したおっさん達の夢の跡――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第12話>

 昭和は過ぎ、平成も終わりゆくこの頃。かつて権勢を誇った“おっさん”は、もういない。かといって、エアポートで自撮りを投稿したり、ちょっと気持ちを込めて長いLINEを送ったり、港区ではしゃぐことも許されない。おっさんであること自体が、逃れられない咎なのか。おっさんは一体、何回死ぬべきなのか——伝説のテキストサイト管理人patoが、その狂気の筆致と異端の文才で綴る連載、スタート! patoの「おっさんは二度死ぬ」第12話 台風は罪なやつ  おっさんどもは混浴を目指した。  レンタカーは別府へと向かっていた。福岡から大分へと続く大分道は山間にわずかに広がる平野を走り、どこか外国のハイウェイのような雰囲気を醸し出していた。  その風景の中を疾走する銀色のレンタカー、車内にはおっさんどもが4人、パンパンに詰められていた。きっとこの車内は世界でも有数のおっさん濃度に違いない、そう思った。  おっさん4人で別府に行き、美味いものを食ったり温泉に入ったりして疲れを癒そう、とかねてから相談していたのだ。温泉といえば別府である。それがついにこの日実現し、完全無欠のおっさん連中が4人、集結したのだ。  ただ、それ以外の好まざる“何か”も別府へと集結しようとしていた。そう、台風だ。九州地方を今まさに襲わんとするその台風はまだ到来せず、遠くの海上で息を潜めているにも関わらず、強い風と大きな雨をもたらしていた。  レンタカーは川のようになった高速道路を駆けた。ハイドロプレーニング現象に怯えながらも水の上を突き抜け、天駆ける跳ね馬となったのだ。別府目指して嵐の中をひた走った。 「台風が襲来するというのに別府に行く意味はあるのだろうか」  車内ではそんな疑問が持ち上がった。当然である。まだ遠くに台風がいる現段階でこの惨状である。当然のことながら、明日には完膚なきまでに暴風域に入り、より酷いことになるであろう。それは火を見るより明らかだった。  当然のことながら、温泉施設やそのほかの飲食店、観光地、エロい店、これらは軒並み台風に備えて休業、となる可能性があるのだ。それなのにハイドロプレーニング現象に乗っかりながら別府を目指す意味があるのだろうか。この旅の意義を根本から問う疑問が持ち上がったのだ。 「ある」  誰かが答えた。 「ある」  別の誰かが念を押すように答えた。 「そこに混浴があるから」  そして何人かのセリフが重なり合った。  別府に混浴露天風呂があるという情報をキャッチした我々は、ただそれだけを信じ、目指していた。  何か得体の知れない、けれども信じるに足る確たる“何か”、太い幹のような頼もしい何か、それが混浴にはあると思っていた。それだけを信じておっさん4人を乗せたレンタカーは高速道路を突き抜けたのだ。  私は車内で考えていた。今なら、今なら、昔からずっと思っていたこと、けれども誰からも賛同が得られなかったあの仮説を理解してもらえるのではないか。ここで提案してみるべきでないか。打ち付ける雨粒がまるで私を促しているかのように見えた。  嵐の中、混浴を目指す私たちはいわば“台風ハイ”みたいな状態にある。普段よりもずいぶんとバカげた世迷い言すら受け入れてしまうかもしれない。そう“台風ハイ”にはそんな魔力がある。こんなチャンスは二度とこないかもしれないのだ。 「台風ってエロいよな」  私の言葉を受け、車内に緊張が走った。  沈黙という気体が隙間がないほど満たされ、ワイパーとフロントガラスと擦れあう音だけが時計の秒針のように正確に音を刻み続けていた。そうでなければこの車内だけ時間が止まったのではないかと錯覚してしまうほどの静寂があった。 「どういうこと?」
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”台風はエロい。だから台風の中で混浴に来る女もエロい”
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