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おっさんの脳は、カタカナの横文字を認識できない――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第14話>

詐欺師のセミナーで突如、異変が

 エリート詐欺師による講演はかなり香ばしいものであったが、ここではそれが本題ではない。彼の講演については別の機会に語ることにして、話を展開することにし、彼の言いたかった主張に触れることにしよう。結局、彼は「自己評価を高めること」ということ主張したかったようだ。 「さあ、それでは二人一組になってください!」  詐欺師は言った。自己評価を高めるには他者からの評価を意識することだ、だから、二人一組になってお互いに褒め合おう、ということらしい。なんだか、僕でも考え付きそうな内容が逆に新鮮だった。  ここでとんでもない事件が起こった。弾かれたクズどもが集結したこの会場において、二人一組を作ったら、人数が奇数だったらしく、僕が余った。このクズの中で、僕が余った。  幼いころの記憶が走馬灯のように蘇る。こういうときあまると先生と組まされるのだ。つまり、この詐欺師と組まされる可能性が高い。そうなった場合、お互いに褒め合うことがかなり難しい。彼を見ても「詐欺師」という言葉しか浮かんでこないからだ。戦々恐々としていると、ガラッと入口ドアが開いた。 「すいません、遅れてしまいました」  息を弾ませ、若い女の子が入ってきた。相当のクズである。クズが集まったこの会場で、唯一、遅れてきたのである。僕はそのクズ女と組まされることになった。 「では、配った紙にお互いの良いところを書いて折り畳んで渡してください」  向かい合うように指示された後、そう言われた。困ったなあ、と思った。  目の前にいるかなり時間にルーズと思われる女の良いところを書き出さなければならないのだ。良いところも何も、この女のことを知らない。それでどうやって褒め合えというのだろうか。こういうのってもっと知った者同士でやったりするんじゃないだろうか。  周りを見ると、やはり微妙な雰囲気だ。書けるはずがないという感じだ。僕の目の前の時間にルーズな女も困っている様子だ。「おっさんだなあ」くらいしか印象がないだろう。それならいいけど、「親父臭い」とか書かれていたらちょっと傷つくなあ、と思う反面、彼女の良いところが全く浮かばない。  いや、彼女にもきっといいところはあるのだろうと思う。たくさんあると思う。でも彼女のことを知らないので、「フェラチオが上手そう」くらいしか思い浮かばないのだ。  そんなこと書こうものなら明日には偉い人がずらっと居並ぶ査問会にかけられている。結局、悩みぬいた末、「堂々としている」と書いた。30分以上遅れてこの態度はご立派だ、ということだ。その紙を折り畳んで彼女に渡す。  すると、別の場所から怒号が飛んだ。 「ふざけるな!」  おっさんが大きな声を上げて立ちあがる。尾崎さんだ。彼のことは知っている。怒りの沸点が異常に低いことで有名な尾崎さんだ。その彼が噂にたがわず激怒し、顔を真っ赤にして怒っている。 「俺は尾崎だ!」  尾崎さんはそう宣言した。その時は、詐欺師がちょっと焦った感じになって、すごい素を出してなだめて事なきを得たが、後で聞いた話では、尾崎さんは相手に書いてもらった紙を見て激怒したそうだ。 「ホソミ」
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僕らおっさんは、経験が邪魔をするのである
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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