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おっさんの脳は、カタカナの横文字を認識できない――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第14話>

僕らおっさんは、経験が邪魔をするのである

 相手の若手社員も困ったのだろう。尾崎さんのことを全く知らない。もしくは知っていたとしても怒りっぽいおっさんくらいしか知らないはずだ。そんな人の良いところを書かねばならない。困っただろう。  やはりこの企画は無理があるのである。そして、尾崎さんが比較的スリムとは言えないが、普通体系だったところに着目し、細身と書こうとした。ただ、漢字が分からなかったのか、面倒だったのか、「ホソミ」と書いたのだ。  尾崎は激怒した。おっさんは三文字のカタカナが読めないのである。  彼は「ホソミ」を「ホソ川」と読んだそうだ。俺は細川じゃない、あの尾崎だぞ、という激怒に繋がったというわけだ。  「川」じゃねえ、「ミ」だよ。そもそも角度が違うよ、なんでそこだけ漢字やねん、そう思うかもしれないが本質はそこではない。僕らおっさんは、経験が邪魔をするのである。  例えば、「スカイ」を「スイカ」と読むことも、経験上、すごいとんでもないミラクルでも怒らない限り「スカイ」とだけ書かれた看板があまりないことをこれまでの経験で知っている。けれども、田舎の国道沿いなどに行くと、確かに「スイカ」とだけ書かれた看板は存在する。だから「スイカ」と誤読するのだ。  同じように、空港でトイレが混んでいて困った経験が「トレイ」を「トイレ」と誤読させるかもしれない。そして、クズどもが集められ、自分は今バカにされた立場にいると経験の上で知っているからこそ、名前を間違えられてバカにされたと腹を立てるのだ。  おっさんはもう新しいことをなかなか吸収できない。僕もこの年になるとよくわかる。  だから経験に寄り添って生きていこうとする。ただ、その経験が邪魔をするのである。若い人から見れば意味不明なところで怒り狂うことも、狂人に見えるかもしれないが、経験が邪魔をしている可能性があるのだ。  おっさんは三文字のカタカナが読めないことがある。読めるけど読めないのである。  そう思いながら、フェラチオが上手そうな女の子に貰った、僕の印象が書かれた紙を開く。 「クサイ」  くさそうではなく、くさい、である。とんでもなく堂々とした女だなあ、と思いつつ、その三文字は読めるのだけど僕には読めなかった。それは全く別の意味で読めない、つまり涙で読めなかったのである。 【pato】 テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。ブログ「多目的トイレ」 twitter(@pato_numeri
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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