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中年男、4人集まれば姦しい。おっさんの股関節を破壊するローカル電車――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第26話>

完全勝利を確信していたトクちゃん

 列車は再度出発し、次の駅に向かって走り出した。 「次は森さんだぞー、何人乗ってくるかな~」  4人の中でも比較的に寡黙っぽい森さんが胸の前で十字を切った。そして列車が減速し、駅へと停車する準備をする。ホームが見えた。 「あああああー、家族連れだー!」  ホームには家族連れが立っていた。抱っこされている赤子を入れれば5人である。50度足を上げなければならない。森さん、股関節外れるんじゃないか。 「ちょ、ちょっとまって! さすがに酷い。家族連れはノーカウントにしよう! っていうか、これから街に近づくんだから明らかに後の順番が不利じゃない。いっぱい乗ってくるよ」  股関節を破壊されてはかなわんと思ったのか、森さんが必死に弁明する。熱弁、必死の説得だ。もうっちょとゲームとして面白くするべきとか熱い主張をしていた。  確かに、いくらローカル線と言ってもこの先はけっこう街中になる。どかどかと乗ってくることもありえる。今のルールでは全員の股関節が破壊される可能性がある。 「じゃあ、乗ってくるおっさんの人数にしよう。つまり、さっきの駅はお父さんをカウントして1人、だから森さん10度ね」  おっさんならそんなに乗ってこないと考えたのか、またルールが変更された。駅でおっさんが乗ってくるかどうか、股関節を賭けたおっさんによるおっさんを賭けたおっさんゲームが始まった。  数駅経過し、その間にポツポツとおっさんが乗ってきた。まあ、ほとんどが1人、もしくは2人だ。ただその大半は0だ。おっさんたちのおっさんゲームも白熱の展開を見せ、3人が10度、ないしは20度足を上げている状態になった。  というか、おっさんたちはそもそもそんなに足が上がらない。座りながら足を上げてるものだからボックス席内が大変なことになっていた。もう、すぐにでも決着がつきそうな感じだ。 「次はトクちゃんだぞ」  次の駅はトクちゃんの番だ。うんこをしていたトクちゃんの番だ。トクちゃんは幸運にもここまでおっさんを引き当てていない。よって足は地面に着いたままだ。足を浮かせて苦悶の表情を見せる他メンバーと違って余裕の表情といったところだ。 「余裕だよ、余裕」  トクちゃんは完全に勝利を確信していた。  それもそのはずで、まあ次の駅で乗ってきたとしてもおっさんは1人か2人くらいだろう。それなら耐えられる。もう1周して自分の順番が周ってくる前に、誰かが限界に達するだろう。そんな算段があった。 「何人のってくるかなー!」  地に足を付けたトクちゃんが余裕でそう言う。  いよいよ列車は駅へと滑り込んだ。貧弱な無人駅だ。トクちゃんは勝利を確信したと思う。ゆっくりと、車窓にホームの景色が映し出された。  めちゃくちゃおっさんいた。  すげーおっさんいた。  ホームからおっさん溢れてた。  どうやらこの駅の近くの何とかセンターで視察みたいなものがあったのか、スーツ姿のおっさんが30人以上いた。それらがドワッと、意気揚々と乗り込んできた。
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ろくでもない時間を楽しむ術を、おっさんは身につけている
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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