ライフ

中年男、4人集まれば姦しい。おっさんの股関節を破壊するローカル電車――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第26話>

ろくでもない時間を楽しむ術を、おっさんは身につけている

「はいー、38人でした。トクちゃん380度な」  トクちゃんの足、とれるわ。  結局、トクちゃんはギブアップを宣言し、おっさんゲームの敗者となった。ただ、そこにもう一つの問題があった。 「負けた人は罰ゲームな」  と宣言していたが、肝心の罰ゲームの内容を決めていなかった。 「そういや決めてなかった」 「じゃあノーカンだな!」 「このあとの居酒屋奢りでいいだろ」 「いいや、ノーカンだ。後から決めるのはよくない」 「でもトクちゃん負けたから。奢りくらいしてくれないと」 「お前らに奢るくらいなら足を380度あげるわ」  トクちゃんの足、とれるわ。380度って一周ちょっとだぞ。  完全に子供の喧嘩みたいになってるのだけど、喧々諤々の議論の末、トクちゃんが苦手なことをする、ということで落ち着いた。  それが「下ネタを言う」だ。どうやらトクちゃんは本当に下ネタが苦手で、ものすごく赤面をしてしまって言えないらしい。それをいつも仲間にからかわれている感じなのだ。これを言うなら罰ゲームになるだろ、そんな提案だ。 「いけトクちゃん!」 「めちゃくちゃ顔赤くなってきた!」  めちゃくちゃ楽しそうだな、おっさんたち。さっき乗ってきた38人の視察のおっさんたちもそれぞれ雑談し始めたので車内は一気に騒がしくなった。 「いけ、トクちゃん!」 「いったれ!」  ついにトクちゃんが下ネタを口にした。 「チチチンポ」  チンポって言いたかったらしいのだけど、完全にどもってた。ラ・ラ・ランドみたいに言ってんじゃないよ。 「うわー言ったー」 「めっちゃ赤面してる」  むちゃくちゃ盛り上がっていた。  おっさんは暇をしない。いや、暇であっても暇を嘆かない。その暇な時間を嫌がったりはしない。なぜならば、そういう時間こそが何より尊く、楽しい時間だと知ってるからだ。  乗り込んできた視察っぽいおっさんたちも口々に話す。 「いやはや、帰りつくまで遠いですな」 「乗換駅で酒でも買いましょうや」 「いいですなあ」  おっさんたちは何もすることがない暇な時間を楽しむ術を知っている。それはきっと、酒を飲んだり低俗だったり、ろくでもないことだけど、そういう余裕こそが人生を楽に生きる鍵なんじゃないだろうか。  おっさんをパンパンに乗せたローカル線は少しだけ都会的なところを走っていた。何もすることがなかった僕も、自分の座席で本当に足が380度回らないものかと試して暇をつぶしていた。足、とれるわ。 【pato】 テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。ブログ「多目的トイレ」 twitter(@pato_numeri) イラスト・ロゴ/マミヤ狂四郎(@mamiyak46
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

1
2
3
4
おすすめ記事