東京を批判してたおっさんの上・京・物・語――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第23話>
昭和は過ぎ、平成も終わりゆくこの頃。かつて権勢を誇った“おっさん”は、もういない。かといって、エアポートで自撮りを投稿したり、ちょっと気持ちを込めて長いLINEを送ったり、港区ではしゃぐことも許されない。おっさんであること自体が、逃れられない咎なのか。おっさんは一体、何回死ぬべきなのか——伝説のテキストサイト管理人patoが、その狂気の筆致と異端の文才で綴る連載、スタート!
【第23話】地方の虎
地方へ行くことが多い。
それこそ周囲何キロも見渡す限り民家がなく、立派な国道が通っているだけのレベルの田舎から、桃鉄の目的地なんだからさぞかし都会だろうと期待して行ったのに、駅前にはコーヒーショップしかなかったレベルの田舎まで、様々な地方に行くことになる。
いつも、その地方に行く前は胸を躍らせる。
よーし、特産品とかめちゃくちゃ食っちゃうぞ、それでもって駅前のこじんまりとした小料理屋に入ってね、ちょっと年齢は上だけど色っぽい女将がいるわけよ。なんか色々なことがあったんだろうな、っていう愁いを帯びた瞳をしていてね。
出てくるのはちょっとひと手間かかった小鉢だ。そいでもって地酒を飲んだりなんかしてね。「東京からこられたんですか? まあ、そんな都会から」「なあに、人が多いだけで何もない場所ですよ、東京は」みたいな会話をするわけですよ。くー、地方最高だな。
そんな感じでワクワクして、いざ! と地方に行くんですけど、実際にそういった趣の小料理屋を前にすると、なんとなく店構えが入りにくいですし、そもそも値段も分からないですし、手間がかかった小鉢も出てこないかもしれないですし、色っぽい女将がいるかも怪しいものです。常連だけで結束した雰囲気なんて作られていたら居心地悪いですし、そもそも地酒なんて僕、飲めませんからね。
そんな感じでどうしても物怖じしてしまい、結局、吉野家かココイチ、下手したらコンビニ弁当にストロングゼロをビジネスホテルで、という感じに落ち着いてしまうのです。
その日もそうでした。
とある地方に行って、まるでゴーストタウンみたいになった駅前を眺めていると、一軒の小料理屋がありました。そこは上に挙げた「いまいち店に入りにくい」要素を全て兼ね備えた奇跡のような店でした。
「こりゃ入りにくいな」
店が発する禍々しきオーラに恐れおののき、そういや駅の反対側にローソンがあるっぽいぞ、そこで弁当とストロングゼロを、と考えていると、ガラッと引き戸を開けて一人のおっさんが出てきました。
「おやあ?」
僕の姿を見てまるで見慣れない生物を見たような顔をしたおっさんは、かなり馴れ馴れしい感じで近づいてきました。
「入るの?」
そのおっさんは携帯電話で誰かと会話するために店から出てきたみたいで、明らかに常連100%みたいな雰囲気でした。
「いや、その」
当然のことにマゴマゴしていると、おっさんはさらに近づいてきた。
「まあまあ、入れよ、いいから入れよ。いい店だからさ」
けっこう強引な感じで傍目には怪しい店の客引きみたいだ。ただただ抵抗できず、奇跡のように入りにくい小料理屋に入ることになった。