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コンビニ店員に、予想外のあだ名を付けられていた俺たちは――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第30話>

おっさんは特にアナーキーな命名をされがちである

「は?」 「浜崎あゆみです」 「は?」  あまりに驚きすぎて同じやり取りを2回繰り返してしまった。  もちろん、あのおっさんに浜崎あゆみ的要素は皆無だ。ちょっとハゲてるゴリゴリのおっさんだ。そんなおっさんがなぜ浜崎あゆみなのだろうか。 「あの人はいつもねっとりと49番でってタバコを指定してすぐに財布の小銭を確認するんですよ。かなり下を見て確認するんです。するとね、そうやって下を見た時だけ頭頂部がみえるんですけど、その髪型が浜崎あゆみの『A』のロゴに似てるんです」  あのロゴかー! モワッっとすいたあれなー。  そんなの分かるわけないじゃないか。  しかしながら思った以上に深く考えられてニックネームが与えられている。こりゃ僕もエロ本サンドとかそういう安易なものじゃないかもしれない。なんだか怖くなってきた。  そこに立ち読みを終えたおっさんが出てきた。きっと立ち読みにちなんだニックネームに違いない。だいたいSPA!とかを立ち読みした後にウンコしにいくので「ウンコSPA!」とか呼ばれているかもしれない。 「ああ、あの人はですね、立ち読みの後にウンコしにトイレ行くんですけど」  きたぞきたぞ。くるぞくるぞ。ウンコSPA!くるぞ。 「ウンコしにトイレに行くのにウンコしていない疑惑があるんですよ。たまたま掃除に行ったやつが流す音が聞こえなかったとかいっていましたし。でもウンコはないんです。もしウンコしていて流していないのにウンコが消えたならゴーストじゃないですか。だから『ゴースト~ニューヨークの幻~』って名前です」  ニックネームなのになげえよ。なんでニックネームにサブタイトルがついてんだよ。そもそもニューヨークどこかからきたんだよ。つっこみどころがありすぎる。  しかしながら、とんでもなく練りに練ったニックネームがつけられている、こりゃ僕も予想だにしないニックネームつけられているぞ。むしろ興味がわいていた。そう覚悟した。 「ちなみに、言いにくいかもしれないけど、僕はどんな名前つけられてたのかな?」  やんわりとした口調で質問する。ついに核心に迫った。 「あー、えーっと」  青年は少し苦笑いしながら答えた。 「いつもカフェオレとドーナツと高菜のおにぎりじゃないですか。だからカフェ・ド・高菜です」  なんで俺だけ安易なんだよ。もっと練ったのつけてくれよ。 「なるほど、ちょっと行ったところに似た名前の店あるもんね」 「そうです」  ニックネームをつけることは自由だ。もちろんそれを大々的に使って、中傷していたりしたら問題だが、名前を知らない人を思い浮かべるとき、誰だってヒゲの人だとか、〇〇に似ている人と心の中でニックネームをつける。それは悪いことじゃない。  今これを読んでいるあなたも、きっと何か特徴があるはずだ。必ず、行きつけの店で何らかのニックネームをつけられていることだろう。  特におっさんはかなり特徴があるので、アナーキーなニックネームをつけられる可能性が高い。できることなら品行方正に行動し、できるだけ無難なニックネームをつけられたいものだ。酔っぱらってちんぽこ出して「ちんぽこ亭」などとつけられないように行動していきたい。 【pato】 テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。ブログ「多目的トイレ」 twitter(@pato_numeri) ロゴ・イラスト/マミヤ狂四郎(@mamiyak46
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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