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成田空港バス内の地獄の伝言ゲームは、まさかの壁で幕を閉じた。そして僕のウ●●は――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第31話>

やっと充電できたはずの瀕死のスマホ。しかし……

 実は、この問題を解決する方法はある。それも比較的簡単な形で存在する。  成田空港には鉄道路線として、JRと京成電鉄の2つが乗り入れているが、いずれの鉄道も普通列車はほぼトイレがない車両だし、電源もない。ただし、特別な料金を払って乗車する成田エクスプレスや京成スカイライナーは、トイレも完備、座席に電源まである。腹痛に怯えることなく、充電しながら都心へと移動できるすさまじい鉄道だ。これに乗れば完全解決である。  しかしながら、料金がややお高い。別に払うのを躊躇するほどの値段ではないが、せっかくLCCを使って安く移動してきたのに、都心までの移動でドカンとお金を使うことは、なんだか負けたような気がする。なんの勝負だか分からないが、負けたような気がするのだ。なにせ6千円で飛行機乗ったんだぞ、6千だぞ。そこからの移動に2千円も3千円も払ったら完全に負けだ。6千円だぞ。  ただ、それら値段の問題も踏まえたさらなる解決策がある。トイレ、電源、値段、そのすべてを満たす方法だ。それは“バス”だ。  成田空港の各ターミナルからは、東京駅まで直通のバスが出ている。これが時間帯にもよるけどだいたい10分に1本は出ていて便利が良い。おまけにほぼすべての車両がトイレ付き、電源付き、というご機嫌な設定。おまけに運賃も1000円ぽっきりと激安、もはやこれに乗るしかないのである。  これを使うしかない。  第三ターミナルを出てバスターミナルに向かう。すぐに東京駅行きのバスを待つ行列が見えた。  すぐにバスがやってきたのでバス後部の窓を確認する。よし、トイレが付いている。  何度かこのバスを利用したが、「ほぼすべてのバスにトイレが付いている」という謳い文句だったが、何回かトイレのない車両を引き当てることがあった。そうなると地獄なので、ここは必ず確認しておきたいところだ。  バスの車内はそこまで混み合っていなかった。大体50%程度の乗車率だろうか、二人掛けの椅子のどちらかに人が座っているような状態だった。なかなか快適だ。  トイレ良し、値段良し、あとは電源だけである。座席の横にコンセントがあったので、そこに充電器をぶっさし、スマホを繋いだ。もう充電は1%になっていて青色吐息、人間でいうと臨終間近の状態だった。けれども、なんとか助かった。命を繋いだ。そう思ったが、そこで異変が起こった。 「あれ? 充電が始まらない」  スマホは1%を表示したままピクリとも動かなかった。充電してるぜ! まってな! という勇ましいカミナリマークが出てこないのである。  何度かコンセントを抜き差ししてみるけど、やはりうんともすんとも言わない。これもしかしたらコンセントが悪いのかな、と隣の席のコンセントに指してみるのだけど、やはり何も変化しない。 「もしかして、この充電ケーブルがダメになってるのかな」  プラグのあたりが劣化していたり、ケーブルが断線していたりして充電ケーブルが使えない、なんてことはよくあることだ。その類なのかなと思ったのだけど、周囲を見回すと同じように充電器を差し込んで首を傾げている人ばかりだ。  特に前の方に座っていたギャル二人は 「充電器つかえね」 「マジ使えね」 「このコンセント使えね」 「使えね、ヨシキくらい使えね」  という会話をしていた。ヨシキが誰なのか知らないけど、彼が何したっていうんだ。全く充電できないコンセントと同等くらいに使えないヨシキ、どれだけ使えない人間なのか興味が湧いてくる。  乗客みんなが気づき始めていた。おそらく周囲の反応から見るにこのバスの全てのコンセントが使えていない、ということに。  ただ、そこまでの状況だと逆に納得しやすい面もある「もしかしたらまだバスが走り出してないから使えないのでは」みたいな世論が形成されつつあった。  なんかよくわからんけど、走り出したら使えるんじゃないの、よくわからんけど発電モーターとかの関係でさ。自転車のライトとかもそうじゃん。そんな考えが蔓延していた。  いよいよバスが東京駅に向かって走り出した。もう一度充電器をぶっさしてみる。やはり使えない。もう僕のスマホは1%とも表示されていない。残量表示すら投げ出している。いよいよ瀕死だ。
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そして始まった伝言ゲーム
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