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成田空港バス内の地獄の伝言ゲームは、まさかの壁で幕を閉じた。そして僕のウ●●は――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第31話>

そして始まった伝言ゲーム

 車内はよくわからない空気が蔓延していた。走り出したら使えるかと思ったが一向に使えない。もしかしたら、よく仕組みは分からないけれども、運転手のところにバスのコンセントを司るスイッチか何かがあって、運転手がそれを入れ忘れているんじゃないか。そういった疑心暗鬼に近い空気がうっすらと漂っていた。  ここで勝気な乗客の一人が立ち上がり、運転席に近づいて「コンセント使えないっす」と言えば解決である。ほら、前の方に座ってる大学生っぽいやつ、勝気そうじゃん、いけよ、ほらいけよ、と思うのだけど大学生は動かなかった。ほんと使えない。ヨシキより使えない。  というか、席を立って運転手に指摘してまでしてスマホ充電したいのかよ、どんだけスマホに依存してんだよ、と思われそうな雰囲気が確かにあった。さらに、走り出してすぐに席を立って遊んでいる若者がいたので、車内放送でけっこうきつめの口調で「席を立たないでください」と怒られたので、席を立ちにくい雰囲気があった。そういった悪条件が折り重なっていた。  席を立たなくても自分の座席からコンセントが使えません、と大声を出せばいいじゃないかと思うかもしれないが、それこそどれだけスマホが使いたいんだよ、必死かよ、と思われてしまう。結局、全員が涼しい顔してスマホなんて充電できなくても構いませんよ、みたいにお澄まし、東京駅までの時間をやり過ごすことに決めたようだった。  というか、みんな充電したいといっても10%とか20%とか残ってるんだろう、十分に戦える。でも、もう僕は残量表示すらされてない。もういつ死んでもおかしくない。追い込まれている。ここはもう僕が大声を出すべきではないだろうか。  そう思ったとき、トントンと後ろから肩を叩かれた。振り向くと、椅子の隙間のスペースからサラリーマン風の男がこちらを見ていた。 「後ろから回ってきたんですけど、コンセントが使えませんって前に回してください」  伝言ゲーム……!  とんでもない策士……! とんでもない名案……! 心の中で唸った。  伝言ゲーム形式にしたことで席を立つ必要もなく、大声を出す必要もなく、おまけに後ろの席の誰かということまでは分かるけど、誰が発生源かも正確にはわからない。そこまで充電したいかよと思われなくて済む。天才かよ。すべてをクリアした作戦じゃないか。乗るしかない。このムーブメントに。  じゃあ僕も伝言を回しましょうかね。 「後ろから回ってきたんですけど、コンセントが使えませんって前に回してください」  簡単な伝言ですよ。前席のおっさんの肩をトントンと叩く。おっさんは少しビクッとなってこちらを振り向いた。 「jふぉpjごぺじょけお@kヴぉr@kvご」  めちゃくちゃ外国人じゃねえか。何言ってるのかわからねえよ。もうほんとに外国人。超外国人。  なんでこんなことになってるんだ。なんで僕の前の席だけ明らかに外国人のおっさんなんだ。それもマイケルムーア監督みたいなおっさんなんだ。難易度が高すぎる。なんで僕だけこんな目に遭うんだ。 「えっと、後ろの席から回ってきたんですけど」  一応、伝言を試みてみるのだけど、当然ながらすごい不思議そうな表情を投げつけられた。 「hぃffhりいえしrlwh」
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繋がらなかった伝言と、忘れかけていた僕のウンコ
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