更新日:2023年03月20日 11:02
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世間は、おっさんが意味もなくキレていると思っているが、確かにそうである――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第39話>

デブの狼藉を許せなかった僕は、ついに奇策に出た

 なのに、このバタ足デブは、そういう考えもなしに平気で僕が使っているロッカーの隣を使っていやがる。そりゃ、こうして被ってしまう可能性のほうが低いのだけど、現にこうして被ってしまい、ロッカーを開けられない僕はフルチンで仁王立ちだ。もう一度言う、フルチンで仁王立ちだ。  そういうところに気が回らない無神経さに心底腹が立つ。ちょっと考えれば誰でも分かることだろ。  怒りは頂点に達した。  けれども、そこは僕も社会生活を営む立派な大人だ。いきなり「てめーの浅はかな行為のせいでフルチンなんだが、ああん?」と喧嘩を売ったりはしない。それでも彼には分からせないといけない。お前のせいで俺はフルチンなんだと。  怒りだ。そこにあるのは徹底した怒りだ。  ベチベチベチベチベチベチ  これ見よがしにチンポを揺さぶって、内股に当ててベチベチと音を立てる。内藤がやっているようにエクササイズのリズムに合わせて揺さぶる。バタ足ならぬバタチンポ。怒りのバタチンポじゃい! 思い知れ! お前のせいでこうなってんだ!  結局、バタ足デブにその怒りは伝わらず、単にロッカールームで激しくチンポを揺さぶってるだけの人に成り果てた僕だったが、悪いことにそのシーンをイケメンインストラクター内藤に目撃されてしまい、めちゃくちゃ怒られた。「ロッカールームで破廉恥な行為はご遠慮願います」ときたもんだ。  これは破廉恥な行為ではない。怒りだ。徹底した怒りだ。  けれども、その思いは内藤には伝わらず、「このデブ病気だ」みたいな視線を投げつけられるだけだった。 「そもそも、ウォーキングのコースで突如としてバタ足はじめるところからイライラしていた」  という弁明もむなしく、「ある程度のバタ足は仕方ありません」という内藤の意味不明な返答があった。そうならばある程度のバタチンポも仕方ないと思うので、今度からエクササイズが始まったらこっそりとバタチンポしてやろうか、そう怒りを燃やしているのだ。  おっさんは怒りやすい。意味不明にやけにイライラするのだ。あんな温厚だった僕がいまや怒りのバタチンポだ。けれどもそれは仕方がないことなのだ。 【pato】 テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。ブログ「多目的トイレ」 twitter(@pato_numeri) ロゴ・イラスト/マミヤ狂四郎(@mamiyak46
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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