更新日:2023年03月20日 11:02
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世間は、おっさんが意味もなくキレていると思っているが、確かにそうである――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第39話>

デブの数々の迷惑行為に怒りが頂点に達した

 僕はその光景を怒りをもって見ていた。まず、ここは歩くコースだ。デブが歩くコースだ。そんなにバタ足で泳ぎたいなら泳ぐコースに行くべきである。けれども泳ぐコースはマッチョのスポーツマンがダイナミックにバタフライとかしているので、怖いのだ。だからデブコースでバタ足だ。まずその性根が気に入らない。  そもそも、ギャルがプールにやってくるのは内藤目当てだ。デブがバタ足したところで何とも思わない。あ、なんか水しぶきがあがってるね、くらいのものだ。むしろカモとかいたほうが心が動く。カモ以下だ。  つまり、こうやってあらゆるデブのウォーキングを邪魔し、髪をしっとり濡らしていったバタ足は完全に意味がないのだ。徹底的に意味がないのだ。世界で一番意味のないバタ足なのだ。  僕は非効率的なことが嫌いだ。  怒りの源泉には、どうしてそんなに効率が悪いのか、というものがあるようなのだ。これだって、例えばその多くのデブに迷惑をかけたバタ足が、彼にとって意味があるものならば怒らない。確かに迷惑だけど、そこまでしてバタ足する必要があったんだ、しょうがねえなあ、と理解し、矛を収める。  けれども、方々に迷惑をかけ、おまけにその行為が何の意味もないどころか逆にマイナスだと思うと、途端に腹立たしい感情が沸き上がってくるのだ。  けれども突如として怒鳴り散らすとか、そういうレベルの怒りではない。確かにイライラするけど、そこは社会生活を営む大人だ。いきなり怒鳴らない。我慢して、イライラしながらも、ちゃんとバタ足を避けながらウォーキングをする。怒りのあまりウォーキングにも熱が入るけど、それでもグッと我慢だ。  しばらくすると、バタ足デブはトレーニングをやめ、ロッカールームへと帰っていった。やっと消えやがった。ちょうどいい頃合いなので僕もトレーニング終了とし、ロッカールームへと引き上げた。そこでさらに事件が起こったのだ。  ロッカールームに引き上げると、あのバタ足デブが僕の隣のロッカーからブリーフを出して着替えるところだった。僕はこの光景を見て、完全に怒りが頂点に達した。  このジムのロッカーは、一つ一つが細長いやつになっている。隣で誰かが着替えていたらちょっと自分はのロッカーは開けることもままならないくらいのスペースだ。もちろん、バタ足がブリーフをはいているので僕は着替えることができない。  別にその行為自体に怒るほど気が短いわけではないけど、この状況に陥る非効率さに怒っている。  このジムはそこまで混んでいるわけではない。おまけに、好きなロッカーを自分で選んで使うことができる。使われているかどうかはカギを見れば一目瞭然だ。そうなると、被った場合に着替えられないから、誰かが使っているロッカーの隣を使うのはやめよう、となるのだ。別に他の場所も空きまくっているので、それはそう難しいことじゃない。
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デブの狼藉を許せなかった僕は、ついに奇策に出た
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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