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「老後に2000万円不足」ってホント?リアルに必要な老後資金を試算した

 6月3日、金融庁が、人生100年時代においては年金だけだと2000万円不足するとの報告書をまとめて物議を醸した。あまりの騒動の広がりに、麻生太郎金融相が11日に「正確な報告書として受け取らない」と事実上の撤回を求める事態にまで発展。果たして真実はどこにあるのか? 年金

リアルに必要な老後資金はいくら?

 まず、20年後の日本が「年金支給開始70歳で、少なくとも70歳まで働く社会」になっていると想定しよう。そんな社会でリアルに必要な老後資金はいくらだろうか? 現在40歳の男性が60歳の時に確保すべき老後資金を算出するため、前提となる「基本データ」を以下のように設定した。 ===== ・夫は正社員で年収500万円。60歳で定年を迎え、退職金なし。再雇用で70歳まで年収250万円。 ・妻は45歳から70歳までパートで働き、年収100万円。 ・夫婦ともに年金受給は70歳からで、95歳まで生きる。 ・35歳で第1子誕生と同時に郊外に3500万円の新築マンションを頭金なし、35年ローンで購入。また、38歳で第2子が誕生。 ・2人の子供は公立高校から4年制の私立大学へストレートで進学。 ・生活費は住居費・学費を除いて、理想的とされるのは14万円。 =====  この基本条件を踏まえて「①資産運用なし」「②年率1%で資産運用」「③夫が自営業者で国民年金、資産運用なし」「④生活費が総務省がモデルとする24万円」の4パターンで検証を行った。シミュレーションを依頼したファイナンシャルプランナーの田中佑輝氏は、それぞれの結果をこう解説する。 95歳まで生き切るシミュレーション 95歳まで生き切るシミュレーション 95歳まで生き切るシミュレーション 95歳まで生き切るシミュレーション「基本となるパターン①では、40歳の時に200万円、60歳の時に900万円ほどの貯金があれば、ある程度医療費や介護費がかかっても95歳まで生きられます。さらに、②のように資産運用すれば、40歳の時点で100万円ほどの貯金しかなくても乗り切れる。ただ、③の国民年金の場合は事態が変わり、60歳の時点で2000万円弱は必要。より早い段階から貯蓄に励まなくてはなりません」  国民年金世帯には厳しい数字が提示されたが、厚生年金に加入していれば1000万円ほどで95歳まで生ききれることが判明。しかし、金融庁の報告書はもとより、巷のレポートでは「老後資金には3000万円必要」などと主張するものも散見される。なぜか? その根源がパターン④だ。 「総務省の『家計調査報告』によると、’17年の高齢者夫婦無職世帯の住居費を除いた1か月の平均支出額は約24万円。ちりも積もればの家計の最大の敵は月々の固定支出なので、ここを抑えればかなり数字は変動します」

平均値は意味ナシ。家賃を抑えれば生きられる

 今回の金融庁の報告書はパターン④よりもさらに多い生活費約26万円で算出されている。このように生活レベルを上げていけば、必要な老後資金はいくらでも吊り上っていくのだ。田中氏は続ける。 「そもそも平均値でシミュレートしようとすると、年金支給額は世帯収入によってそこまで変動しないのに、生活費だけ富裕層に引っ張られて上昇するので、めちゃくちゃな試算となるに決まっている。まったく意味がありません。ちなみに、私はこれまで1万人以上のご相談を受けてきましたが、老後破産のリスクが高いのは平均的な所得の世帯よりも、高所得で生活レベルが高い世帯。定年後に収入が激減したにもかかわらず、生活レベルを下げられないご夫婦です」  ぜいたくをしているつもりはないのに、「2000万円必要!」と煽られて多くの人が虚を突かれたのも無理はない。しかも、今の現役世代が老後を迎える20年後は、さらに生活コストが下がっている可能性が高い。 「実際問題、20年後には東京に住まない限り家賃などほとんどかかりません。長野県に移住した私の伯父は、楽器を作りながら月5万円の収入で悠々自適に暮らしていますよ」  老後資金は10年もあれば確保できるはず。決して悲観することはないのだ。 <新説・老後資金> 厚生年金なら1000万円、国民年金なら2000万円あれば生き切れる! 【田中佑輝氏】 ファイナンシャルプランナー。アルファ・ファイナンシャル・プランナーズ代表。これまで1万人以上の「老後不安」を解消。著書に『お金の教科書』(アスコム) 取材・文/谷口伸仁 藤村はるな 藤野綾子 撮影/Masayo イラスト/bambeam アンケート協力/エコンテ ― 3000万円貯める方法 ―
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