更新日:2023年03月21日 15:43
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第533回 4月26日「何もせずに3億かせぐ話」-4(最終回)

・30億返せと訴えられつつ、僕はふにゃふにゃ逃げ続けていた。それには理由があった。とにかく時間を稼ぐ必要があったのだ。 ・半年が過ぎた。 「よし」  僕は突然、真面目に裁判に出廷しはじめた。そして粛々と判決を受け入れた。結果はもちろん全面的な敗訴。30億の支払命令が下った。即座に払わないと、高額の追徴金が加算されていく。 ・なぜ僕は負けることを前提にだらだらと時間稼ぎをしていたのか。話はその1年前にさかのぼる。ゲームクリエーターのAが僕のオフィスを乗っ取って無駄遣いを始めた頃、取引銀行から僕のところに営業マンが訪ねて来た。 ・口座に30億が振り込まれたからだ。当時はバブルの超高金利時代で、銀行は貸すだけでなく預金を確保することにも必死で、この大金をなんとか定期にさせたがっていたのだ。 ・話を聞き、さらにいろいろ勉強して、僕は30億をその銀行の系列の証券会社に移した。純金定期運用という形で。 ・現金ではなく純金を購入して預けておく形の定期だ。当時そんなプランがあったのだ。ただし純金のやりとりはペーパー上のことで、つまり形式にすぎない。この預金のメリットは、高額の利子と、短い預入期間だった。純金の価格変動に関わらず年10%の利子が保証されていた。しかも満期はわずか1年後だった。年利10%というと今の若い人達は驚くかもしれないが、その頃は郵便貯金でも定期にすれば8%にもなった。そういう時代だったのだ。 ・1年が過ぎ、30億は33億になって元の口座に戻ってきた。僕は口笛を吹きながらその中から30億を支払った。トランポリンは、近所の幼稚園に寄付した。
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。
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