更新日:2023年03月21日 16:07
エンタメ

ロックはもう死にかけ? 「ウッドストック50」中止の波紋

ロックの道1:伝統芸能として受け継がれる

 しかし、同時に、いちジャンルとしてならば、ロックはしたたかに生き残るのではないかとも感じている。考えられる道は2つ。  まずは、フェティッシュな伝統芸能として受け継がれる可能性。近年の奥田民生(53)や、“レッド・ツェッペリンの再来”の呼び声も高いアメリカの若手バンド「グレタ・ヴァン・フリート」のような存在がわかりやすい。
 宮大工のように、60年代、70年代のサウンドを丁寧に復元させることで、“かつてロックという途方もない熱量を持つ音楽があった”、そんな史実を啓蒙していく作業だと言える。レコードやCDが最も売れた時代に隆盛を極めたジャンルだからこそ、需要は根強いのではないだろうか。

ロックの道2:有事の時に出てくる予備役

 もう一つは、有事の際の役割だ。たとえば、戦争やテロ、災害が起きたとき。チャリティーコンサートを引き締めるのは、「レット・イット・ビー」であり、ブルース・スプリングスティーン(69)であり、ボン・ジョヴィであり、オアシスなのだ。テイラー・スウィフト(29)やアリアナ・グランデ(25)、ブルーノ・マーズ(33)といった面々にはない器の大きさである。
 瞬間的な動画再生回数では計れない、楽曲の耐用年数。これは現代のポップスにはない強みだ。(もちろん、テイラーやアリアナが劣っているという意味ではなく、産業構造の移り変わりが、ヒットソングの性質を変容させた点は押さえておきたい。)  ともあれ、最前線から引いた場所で待機する予備役的なポジションなら、ロックはまだ十分に力を発揮するのだと思う。  結局、1969年の再現は叶いそうにないウッドストック50。50年の時を経て、“失われた魂”(イーグルス「ホテル・カリフォルニア」より)の物語が完結したのだとすれば、なかなかシャレたオチだと思う。そろそろ、ロックを精神性の呪縛から解放してやる時期なのだろう。 <文/音楽批評・石黒隆之>
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4
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