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夢を問うてくる中国人女性マッサージと、ネオンの夜――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第51話>

 昭和は過ぎ、平成も終わり、時代はもう令和。かつて権勢を誇った“おっさん”は、もういない。かといって、エアポートで自撮りを投稿したり、ちょっと気持ちを込めて長いLINEを送ったり、港区ではしゃぐことも許されない。おっさんであること自体が、逃れられない咎なのか。おっさんは一体、何回死ぬべきなのか——伝説のテキストサイト管理人patoが、その狂気の筆致と異端の文才で綴る連載、スタート! patoの「おっさんは二度死ぬ」【第51話】オニサン、マッサジヨ  まだ夜が明けきらない暗闇の歌舞伎町にその声が響き渡った。 「オニサン、マッサジヨ」  これから夜明けを迎えようかという時間帯、西武新宿駅周辺は俄かに活気づく。中国系と思われる妙齢の女性が往来に立ち尽くし、盛んに声をかけてくるのだ。 「オニサン、マッサジヨ」  歌舞伎町を抜けて西武新宿駅と向かう道中、そうやって独特のアクセントで話しかけられる。 「いや、いいですから」  そう断って歩き出すが、数メートル歩くと看板の影から別の女性が出てくる。 「オニサン、マッサジヨ」 「いや、いいですから」  断ってさらに先に進むと今度は通りの角から別の女性が飛び出してくる。 「オニサン、マッサジヨ」  王者山王工業を思わせる鉄壁のゾーンディフェンスだ。そこまでして熱烈にマッサージに誘い込んで何がしたいのだろうか。  ここ新宿歌舞伎町において、客引きの呼び込みは完全に良くないものだ。ボッタクリや詐欺に遭う確率が異常に高いわけで、絶対についていってはならない。特に、その中でもこの種の「オニサン、マッサジヨ」という呼び込みはかなりの怪しさがある。絶対についていってはならない。  筆者はこの呼び込みについていったことはないが、知人のおっさんがついていったことがあり、その話を聞いたことがある。  その日は、飲み会だったようだ。場の雰囲気も盛り上がり、もしかしたら同僚女性とヤれるかもしれない、みたいな淡い期待を抱いた彼は、半ば意図的に終電を逃した。しかしながら、そのヤれるかもしれない同僚女性は、別の同僚男性と共に夜の街へと溶けていった。  あてが外れ、夜の街へと放り出された彼は歌舞伎町をさまよった。そこで声を掛けられる。 「オニサン、マッサジヨ」  普段ならこの種の呼び込みなど無視するが、彼は傷ついていた。そして、どうしていいのか分からなくなっていた。そして人肌が恋しかった。少しだけ心が動いた。  それを機敏に感じ取ったのか中国人と思われる女性が言葉を続けた。 「マッサジ オワッタラ ソノママ シハツマデ ネテイイヨ 3000エン」  安い、と思ったそうだ。確かに安い。  これから始発まで時間を潰せる施設、ネットカフェなりサウナなりを考えた場合、どうしても3000円くらいかかってしまう。それならばマッサージがついているぶんこちらのほうがお得じゃないか。それに、こんな路上で怪しげに勧誘してくるのだ。もしかしたらエロいサービスもあるのかもしれない。完全にお買い得だ。
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マッサージ女性の様子に突然異変が起きた
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pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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