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おっさんの、超どうでもいいボヘミアン・ラプソディ――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第50話>

 昭和は過ぎ、平成も終わり、時代はもう令和。かつて権勢を誇った“おっさん”は、もういない。かといって、エアポートで自撮りを投稿したり、ちょっと気持ちを込めて長いLINEを送ったり、港区ではしゃぐことも許されない。おっさんであること自体が、逃れられない咎なのか。おっさんは一体、何回死ぬべきなのか――伝説のテキストサイト管理人patoが、その狂気の筆致と異端の文才で綴る連載、スタート! patoの「おっさんは二度死ぬ」【第50話】どうでもいい日のラプソティ  面白いもので、普通に生きているだけなのに心の底から「どうでもいい」と思える事象が連続して起こることがある。  例えば、人混みの中を歩いていると、やけに前を歩く人が立ち止まることがあるのだ。道に迷ったか、それともスマホにメッセージでも届いたのか、とにかく目の前を歩いていた人が急に立ち止まる。  一瞬、ギョッとするが、まあ、それだけのことだ。すぐに回り込んで歩き出せばいい。ただ、これが何回も続くことがあるのだ。おかしなこともあるものだなあと、首をひねるが、まあ、それだけのことだ。言ってしまえばこれも「どうでもいい」なのだ。  ちょうどその時も、繁華街の裏通りを歩いていた。朝の9時半だ。なぜか通りには人が多く、その中を縫うようにして歩いていたところ、目の前を歩いていた“ほとんど半裸”みたいな服を着た女が立ち止まった。  うおっ、と驚き、ぶつかりそうになるが、なんとかすんでのところで止まることができた。なんでこんな何でもない場所で立ち止るんだ、危ないな、とムッとしながら女の顔を見ると、どうやら何か気になるものを眺めているようだった。  彼女の視線の先にはおっさんの集団がいて、なにやらゴチャゴチャと言い争いをしているようだった。その中でも特に声を張りあげているおっさんがいて、彼女の視線はそのおっさんに釘付けだった。 「俺が19番だって言ってんだろ!」 「まあまあ」  小さい紙片を片手にヒートアップするおっさんに、それを宥める仲間と思われるおっさん。たぶんパチンコ屋なんだろうけど、何らかの入場順番で揉めている様子だった。早い話、手に持っている紙片にはおそらく抽選か何かで配布された入場順番が書かれているのだけど、どうやら「19番」がかぶってしまっているらしい。 「そんなものどっちでもいいじゃん、どうでもいい」  そう思うのは傍目で見ているだけの僕だからで、当のおっさんは真剣だ。さらにもう片方の19番を手にしている若者風のメガネも真剣だ。我こそが真の19番継承者、みたいな態度で絶対に譲らないという気概を見せていた。  基本的に“どうでもいい”やり取りだが、唯一気になったところがあった。それは、怒鳴っているおっさんがボヘミアン・ラプソティのTシャツを着ていた点だ。あの、映画ボヘミアンラプソディーのジャケットイメージがそのままプリントされたTシャツだ。
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引っ込みがつかなくなったおっさんが選んだ手法は……
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pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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