夢を問うてくる中国人女性マッサージと、ネオンの夜――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第51話>
マッサージ女性の様子に突然異変が起きた
快諾し、その怪しげな中国人女性についていくと、これまた怪しげな雑居ビルへと連れていかれたそうだ。けっこうな距離を歩かされもう歌舞伎町の面影すら残っていない場所だった。
コンクリート打ちっぱなしの通路があって、蛍光灯が瞬き、見たことのない大きさの蛾が集まっていた。なぜかその通路の端っこには壊れた一輪車が4台捨てられており、その光景が妙に印象的だったと語る。
通された部屋は真っ暗で、おばちゃんの下着みたいな布で仕切られたスペースがいくつもあった。特に人の気配はしなかったので、他に客はいなかったようだ。その中の一区画に通されると、呼び込みの中国人女性は消えた。
しばらく待つと、毒リンゴを保持していそうな完全無欠の老婆がシュッとカーテンの隙間から顔を出した。
「3000エン」
そう言った。
財布を見ると5千円札しかなかったので、おつりをくださいと言って差し出した。そのまま、おつりを持ってこられることはなかったという。老婆は二度と姿を現さなかった。
本当にここでマッサージをするのだろうか。ここで眠れるのだろうか。そんな疑問が湧き上がってきた。なぜなら、この仕切りの中にはベッドがないのだ。事務用の丸椅子と、なぜか壊れた一輪車が1台あるだけ。あと、床に本宮ひろ志先生の「男樹」2巻が転がっていたらしい。
もしかして一輪車を使った画期的なマッサージがあるのかもしれない。そう思って待ったが、誰も来なかったという。本当にずっと待ち続けたが、誰も来なかったという。そのうち朝日が昇り始めてきて、遠くで電車が動く音が聞こえたので、そのまま始発に乗って家に帰ったそうだ。
「あれ、なんだったんだろうな」
彼はそう言って当時を振り返った。
彼の場合、5000円を取られただけで済んだが、噂によるとかなり危険なボッタクリに遭ったりすることもあるようだ。あと、本当に人智を超えたヤバいおばちゃんのマッサージが実施されることもあるようだ。それだけで済んだことを幸運に思うべきなのかもしれない(丸椅子に一晩で5000円はまあまあのボッタクリだけど)。
やはりこの種の呼び込みにはついていくべきではないのだ。
コンビニで買い物をし、カフェオレを飲みながら通りを見る。やはり、中国人女性の呼び込みは、盛んに道行く人に声をかけ続けている。
「オニサン、マッサジヨ」
「オニサン、マッサジヨ」
「オニサン、マッサジヨ」
とにかく、男性が通ったらそう声をかけている。そのルーチンと思われる動きには無駄がない。まるでそういった動きを覚えこませたロボットのようだ。
「オニサン、マッサジヨ」
しばしその光景を眺めていたが、異変が起こった。
ビルの合間からのぞく東の空がしらじらと明るくなったその時、ロボットのように同じ動きを続けていた中国人女性が意外な動きを見せた。
「あなた、いつも遅くまで働いているね?」
なんと、「オニサン、マッサジヨ」以外の言葉を放ったのだ。しかもけっこう流暢な日本語だ。見ると、コンビニの向かい側にある居酒屋でゴミ出しをしている店員に話しかけていた。
「え? 僕ですか?」
話しかけられた店員もびっくりした様子だった。