更新日:2023年04月18日 11:00
エンタメ

NYで見た体験型ショー『Tamara』のこと/鴻上尚史

観客が目撃する女中の事情

 主人がタマラを導いた瞬間に、登場人物全員が動き始めます。  その時、執事が壁際に立っていた観客に向かって「さあ、どうぞ、興味のある登場人物の後について行って下さい!」と叫ぶのです。  僕はとっさに、女中の後につきました。20人ぐらいの観客が、ゾロゾロと女中についていきます。  女中は、地下の厨房に進みました。大きな屋敷なので、20人の観客ぐらい簡単に入れるのです。  紅茶をいれていると、ベルが鳴りました。女中は急いで、紅茶を二つ、トレイに載せて、二階まで階段を上がりました。当然、僕達観客もついて行きます。  女中が立派なドアを開けると、ソファに座る主人がいました。その背後に20人ぐらいの観客、主人の正面には、タマラ。その背後に20人ぐらいの観客。  女中が紅茶を置くと、主人はいかにも好色そうな目でタマラを見て、タマラににじり寄ろうとしました。  女中が思わず、見つめようとすると、主人は「しっ! しっ!」と追い払います。しょうがなく、女中は出て行くので、僕達も出て行くのです。そして、ドアは閉まります。  女中は、この後、自分の部屋に戻ります。すると、ドアが乱暴に開いて、屋敷の息子(青年)が入ってきます。そして、女中にチュッチュッとセクハラします。女中はただ受け入れます。息子が出て行って、しばらくすると今度は、居候しているファシスト党の若者が入ってきます。そして、またチュッチュッと。女中は黙って受け入れます。  若者が出ていった後、引き出しを開け、幼い子供の写真を取り出します。そして、話しかけるのです。「ぼうや。ママは何があってもこの仕事をやめないからね。お前にお金を送り続けるからね」と涙ぐみながら語るのです。それを見つめる僕達観客は、彼女に深く同情します。  また、呼ばれて廊下を歩いていると、向こうから息子が来て、チュッチュッします。と、ファシスト党の若者も現れて、共有物のようにチュッチュッします。息子と若者についている観客は「なんてふしだら女だ」とニヤニヤしていますが、女中の後ろにいる僕達は、泣きそうな顔になるのです。この話、続きます。(近日公開予定) ※週刊SPA!8/6号より
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