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NYで見た体験型ショー『Tamara』のこと/鴻上尚史

ブロードウェイ

NYで見た体験型ショー『Tamara』のこと

 ニューヨークに来ています。  秋の新作を書くためですが、ひょんなことから、『Sleep No More』を4年ぶりに見ました。  ホテルを舞台に、参加者が各部屋を自由に歩き、出会った登場人物の後を追いかけていくと、ある物語が浮上してくるというじつにスリリングな仕掛けです。  ニューヨークに旅行に行く人の間では、「ミュージカルを見る時間はなくても、『Sleep No More』だけは見といた方がいいよ」と言われ続けています。  僕自身は、1990年前後に体験した『Tamara(タマラ)』を思い出しました。  ブロードウェイには、その日のチケットを約半額で売る『TKTS』という窓口があります。連日、安いチケットを求めて多くの人が並びますが、その昔、そこで「『Tamara』100ドル」という表示を見ました。  ミュージカルの平均が100ドルで、チケットは半額の50ドルで売られていた時代です。  チケットに示されていた場所は、劇場ではなく大きな屋敷でした。  チケットを差し出すと、代わりに、パスポートのようなノートを渡され、そこにバンッ!とイタリアのイミグレのハンコが押されました。時代は、たしか、1930年代の表示でした。 「おお、なんだ!?」と廊下を進んでいくと大広間にぶつかりました。入ると、200人ほどの客が、唖然とした顔のまま、壁際にずらりと立っていました。  真ん中に大きなテーブルがありました。やがて、執事が現れ、続いて、屋敷の主人と思われる男性、その妻、息子などが現れました。  そして、執事が「タマラ様がご到着されました」と言いながら、長身の女性を案内して来ます。  タマラを含めて、8人がテーブルにつき、執事と女中が傍に立ちます。つまり全員で10人の登場人物です。  短い会話から、屋敷の主人が自分の肖像画を描いてもらうために、女流画家のタマラを呼んだということが分かります。
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観客が目撃する女中の事情
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