近所の保育園に現れた不審者。どうりで見覚えがあると思ったら……――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第64話>
保育園に不審者注意喚起のチラシが……
それからしばらくして、ちょうどその日は職場の大清掃の日で各自「動きやすい格好で来ること」との通達があった。家の中を熱心に探したが、光の三原色で構成されためちゃくちゃ派手な登山ウェアしか出てこなかった。
仕方ないのでそれを着ることにするのだけど、そうなるとオシャレな僕は持っているリュックが派手な登山ウェアに合っていないような気がしてきた。なので、所有していた、これまた光の三原色が大胆に配置されたド派手な登山リュックを背負って通勤した。
「俺はいま、光の三原色の申し子」
と訳の分からないことを念じながら出勤し、光の三原色は職場の大清掃を難なくこなした。
それから数日後のことだ。
いつものごとく出勤すると、同僚の女性がため息をつきながら白い紙を眺めていた。あの保育園の前で会った同僚女性だ。また、突如として大清掃があるとか、そういった明らかに思い付きだろと言いたくなる良くない命令が上から降りてきたのかと焦った。
「そういうことじゃないのよ、ちょっと保育園からね、注意喚起の紙が回ってきてね」
何かと物騒な世の中で、最近の保育園の反応は早い。ちょっと不審な人物が保育園の前を歩いていたというだけで即座に情報共有がなされ、注意喚起が行われる。
「普段はね、口頭で注意喚起されるんだけど、今回は最大級の警戒らしく、プリントが配られたの。心配だわ。怖いわ」
なるほど、保育園始まって以来の厳戒態勢を取らざるを得ない伝説の不審人物、そんなものが現れたのか。
「でも、警戒しすぎってことはないですからね。お子さんの安全を考えたら正しい判断ですよ。立派な保育園じゃないですか」
「そうねえ」
同僚女性はそう言ってまた、配られたプリントに視線を落とした。あまりに不安そうなので、その気持ちを和らげるために饒舌に喋る僕がいた。
「しっかし、どんな不審人物なんですか」
「とんでもねえやつだ」
「保育園を恐怖に陥れるなんて、僕がぶっ殺してやりますよ!」
少し冗談めかして言ったことにより、深刻で重たい空気がガラッと変わった。
「そうね、見つけたらお願いするかも。こういう人物だから」
同僚女性も少し冗談めかしてそう言い、プリントをこちらに手渡してきた。
「どれどれ、どんなふてえヤロウが……」