更新日:2023年04月25日 00:13
エンタメ

近所の保育園に現れた不審者。どうりで見覚えがあると思ったら……――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第64話>

見覚えのある三原色がそこにはあった

 そこには毒々しいフォントで「不審者が園の周りを徘徊していました」と書かれ、絵の得意な保育士さんが描いたのだろう、イラストまで掲載されていた。  それが、明らかに怪しげな感じで描かれていて、目なんか狂ってる感じの異常な目つき。狂人の眼光。口も半分ぐらいダラリと空いていて、薄笑いを浮かべている。髪もボサボサで、どっからどう見ても完全無欠に気持ち悪いおっさんだ。  そういう人物だから服装も奇抜で、きっと狂人なのだろう。なぜか意味不明に光の三原色みたいな服を着て、服だけなら“派手な人かな?”と理解もできるけど、なぜかリュックまで光の三原色、普通、光の三原色に光の三原色リュックを合わせるか? という狂人っぷりでってこれ俺じゃねえか。  え、なんでこんなことになってんの。あの日、清掃の日にこの服装で保育園の前を通ったけどさ、それだけでこんなことになってんの? 右下に小さくなぜか丸ゴシックで「異常行動に出る可能性あり。注意」って書かれてるの。なんでここだけ丸いフォントなの。  「でも、こんな見るからに怪しい人いないですよね~」  同僚女性が少し笑いながら言う。  「そ、そうだよね。こんな分かりやすいのいるかな~」  「いたら本当にやばいですよ」  「や、やばいね」  「これ保育士さんがオーバーに描いてるだけじゃないかな。こんな人いないでしょ」  「いるかもしれないし……いないかもしれない……」  良かった。そう言えば清掃の日にこの同僚女性とは会わなかった。会っていたらこのプリントの不審者は僕だって即座に気づかれるところだった。危ない危ない。それにしても保育園の警戒システムってすごいんだな。たった1度だけ派手な服装で前を通っただけなのに。  とにかく、完全無欠の不審者になってしまうので、光の三原色登山ウェアと光の三原色リュックは、パチンコ屋でよく合う常連のトヨトミさんというおっさんにあげた。若い人はみんな着てますよって言ったら喜んでいた。  そのトヨトミさんはそのダブル光の三原色でパチンコ屋の行列に並びに来るので、完全に不審者だ。あんな不審者いるんだ。光の三原色に光の三原色を合わせるのはガチでやばい。  今日も自転車で通勤すると、保育園の前で同僚の女性に会う。遅刻を気にしだしたのか、少し時間を早めた同僚女性は、自転車で行っても会うようになった。もちろん光の三原色は着ない。あれはもうない。  朝の保育園前は戦争だ。お母さんと別れるのが嫌でムスッとしていた息子さんも、何かを決意したように保育園に吸い込まれていく。  保育士さんも、同僚女性も、彼の小さな決意を見て微笑んでいるように見えた。同僚女性はお母さんの表情をしている。  職場のみんなは僕が知らないだけで別の顔を持っている。もちろん、僕だって職場の皆が知らないだけで光の三原色を着た不審者という別の顔を持っているのだ。
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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