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返還寸前、大出遅れからボートレースの大逆転劇<江戸川乞食のヤラれ日記S>

あとコンマ06秒スリットを抜けるのが遅かったら……

<江戸川乞食のヤラれ日記S>=名勝負と呼べない名勝負?・1=  今年(’19年)4月に若松で大谷直弘が1.00のスタートタイミングで欠場。ST1.00まではセーフと思っていた人はけっこういたかもしれない。  このレースで思い出したのが作間章のこのレース。本人は後の記者へのインタビューで「波を考えてたら1秒間違えちゃった」と自供していたので、もしあとコンマ04スリットを抜けるのが遅かったらL1(選手責任の出遅れ返還)待ったなしだったようだ。  もちろんスタートがセーフならそのまま作間はレース続行。終わってみたら名でも迷でもある勝負が完成してしまったのである。 平成25年(’13年)10月2日 G2江戸川634杯 6R 1 黄金井力良 27歳 埼玉 A2 2 長岡 良也 29歳 兵庫 A2 3 山口 高志 31歳 佐賀 A2 4 川尻 泰輔 30歳 埼玉 A2 5 原田富士男 44歳 福岡 A1 6 作間 章  34歳 千葉 A1 (級別・年齢は当時)  江戸川水面は同じコンディションの水面は二度とないとよく言われている。風と潮流、水量が毎回違う。1つ前のレースが嘘みたいに見える程水面が荒れたり、またここは多摩川かよ、と思うくらいまったく波が立たなくなることもザラにある。  この日も潮汐のアヤでいちばんの難水面となった第6R。気象状況と水面状況は上げ潮30cm、北風(スタート時向かい風)6m、波高15cmと数字的にはそれほど派手な波水面には見えない――と思ってしまうのは、かなり江戸川の波水面に毒されている症状なので注意が必要――なのだが、競走水面は風と波がまともにぶつかり、見た目以上に水面状態が悪化している。  事実、この日は一つ前のレース5Rから急に水面が荒れ始め、その煽りを受けたのか1号艇末永末祐輝が出遅れ返還(L0……選手責任外の出遅れ)、そしてこのレースからはスタート展示前から波やうねりが目立つようになり、それぞれの展示タイムは6.88~7.99とバラバラな上に、次の7Rから9Rまでは周回短縮競走(2周戦)になっている。  その6R。作間はこの日2回走り、前日は1着・2着と江戸川巧者ぶりを発揮していた。しかし作間自体はこの水面で、しかも江戸川巧者をかき集めたG2開催の6コースということもあり、人気をかなり落としている。  確かに発売締切時点でも、客は水面不問で小金井のイン戦押し切りを期待するオッズにまとまっていた。  ファンファーレと共に一斉にピットを離れる6艇。しかし、水面は展示航走時よりも大きな波やうねりが目立つようになっていた。  この水面を見て、1コースだからってはいそうですかと小金井があっさり逃げきったり、長岡良也がレースを作るとは思えない、こりゃ作間の頭まであるぞ? 作間絡みの舟券を買っている客はそんな皮算用をしていた。  しかし、そんな客の表情が一瞬にして曇る。  12秒針が回転を始め、アウト側の選手から起こしを始める……はずなのだが、作間の挙動がおかしい、時計を読み間違えたのか、それとも浮遊物を巻き込んだのか、作間の艇は内側艇の加速に置いていかれた。  スリットを抜けたところで響く断末魔、いまさらいうまでもないが、スタート立ち遅れた艇の舟券はスリット抜けて2秒で勝負権を失い紙くず確定、それをわかってるおっちゃんが「ああ~っだめだ! 作間は出遅れになってくれっ!」と叫ぶ、出遅れなら作間絡みの舟券はすべて返還、被害は最小限に食い止められる。  しかしここは江戸川、そしていろんな意味で江戸川らしさとして知られる波水面。このままレースが終わるわけがなかった。
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約6艇身差を一瞬にして縮めた作間のターン
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