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世代交代の兆しとなったSG優勝戦での「恵まれ」。明暗を分けた2マーク<江戸川乞食のヤラれ日記S>

大波乱。大阪両者の明と暗

平成8年(’96年)5月27日 SG第23回笹川賞競走 12R 優勝戦 1 川崎智幸 29歳 A1 岡山 2 安岐真人 52歳 A1 香川 3 倉谷和信 32歳 A1 大阪 4 池上裕次 31歳 A1 埼玉 5 上瀧和則 27歳 A1 佐賀 6 松井 繁 26歳 A1 大阪  気がついたら優勝戦メンバーは2000番台ではなく1000番台の安岐真人vs3000番台のケンカという形におさまった。さらに言えば、今回はその3000番台の川崎智幸、倉谷和信、池上裕次、上瀧和則、松井繁、彼ら全員がここで勝てばSG初優勝というメンバー構成である。  実はこのベテラン1人vs若手5人の図式は、この前年の丸亀ダービーでもやはり安岐真人vs若手5人という組み合わせで実現しており、その時は安岐が貫禄の差し抜けで優勝している。  そして、その時の2着が5号艇の上瀧。優勝戦オッズも丸亀ダービーの再来を期待しているのか、2-5 が一番人気に推されていた。 「とりあえず今日も倉谷総流し。ここでまた誰も安岐を潰せなかったら、3000番台もたいしたことねぇってことになるよな」 「ああ。まず間違いなく上瀧は動きそうだな。ヤツは野中がいようが中道がいようが遠慮会釈なく前ヅケに出るようなタイプだし、安岐くらいじゃビビらないだろ」 「だな。おっと、まくり屋よっちゃんは松井を教えてやがらぁ、こりゃ松井消しか?」 「それと、1枠もらった地元の川崎がどこまで粘るかだけど、今節の水面だとインにこだわらないかもしれない、すんなり安岐とか来たら入れそうな気もするぞ」 「むしろ誰がダッシュに回るか、たぶん松井と池上だろうな」 「あーくそ。毎回毎回SGのレースは進入予想が難しくてたまんねぇ。下手したら舟券当てるより難しいぜ」  古い競艇客はいまの基本枠なりのレースを嫌っている割に、自由進入の時代でも進入予想は嫌っていたのは間違いない。  そしてレースが始まる。モニター越しでも感じられる児島本場の熱気。野次とも声援ともつかない歓声に送られ、ピットを離れる6艇。  ピットを離れると狙ったように、3号艇倉谷と5号艇上瀧が一直線に1コースを取りに行く。そんな二人に対し、安岐も川崎も大きな抵抗をせずスロー勢の進入は80mと120m起こしの 35/12/46 という二段カド体形。  スリットでダッシュ勢が立ち遅れ、スロー4艇が早いスタートを切る。そうなればイン倉谷が有利。1Mを全速で回り、そのままトップでバックに抜けだし差した安岐と池上が追走する。 「倉谷やりゃぁがった!! このまま3-2 3-4のどっちかしかねぇ!! どっちも持ってるぜ!!」 「昨日の準優は今日の練習ってか? これ、内側の池上の方が伸びてるな。なにもなければこのまま 3-4 で決まりそうだな」 「へっへっへ。やっぱり倉谷の頭流しで正解だ、いいぞ倉谷、焦るなよ!」  と、すでに取った気でいる自分はオッズをチラ見しながら払い戻し金の計算をしていたのだが……。  1周2M、丁寧に回りすぎたのか、それとも回り足が良すぎてサイドがかかりすぎたのか、旋回が終わって舳先(へさき)をホームに向けた途端、倉谷の艇が振り込み、そのまま転覆してしまった。  倉谷の転覆に後続の池上がもろに巻きこまれ、安岐と上瀧は倉谷を避けようと外へハンドルを切り、ぽっかりと道が開いた倉谷の艇の内側を松井が最後尾から一気に差し抜け、そのままトップを取りきっていた。  トップを拾った松井はそのまま他艇の追撃をゆるさずに1着でゴール。先頭艇の転覆という大波乱をかいくぐり、SG初優勝を成し遂げた。 「倉谷ばっきゃろーっ!! 今節どれだけ児島の2Mで振り込んだバカがいたか、よりによっておめぇまでつきあうこたぁねぇだろ!?」 「ここでヤジっても倉谷には聞こえないよ、俺らテレビの前なんだからよ」 「うー、確かにそうだけどよ。こちとら倉谷から勝負してたんだしよ、文句の一つもいわせろや?」 「好きにしてろ。しかし倉谷、運がないな。これはヤツの競艇人生にケチついたかもしれないなぁ……」 「そうかもしんねぇな。……しかし、わかんねぇもんだなぁ。倉谷のほうが松井より実力は上のはずなのによ、松井の方が先にSGかっぱらっていくとはよぉ」 12R 優勝戦 結果 1着 6 松井 繁 6コース .17 2着 2 安岐真人 4コース .03 3着 5 上瀧和則 2コース .04 4着 1 川崎智幸 3コース .01 5着 4 池上裕次 5コース .12 転覆 3 倉谷和信 1コース .07 連単 6-2 2880円 17番人気 決まり手 恵まれ 「はいはい松井くんおめでとおめでと。しかし、倉谷はこの転覆で賞金はパー。俺と同じオケラでカッパってことか」 「いや、残念ながらそうじゃないみたいだ」 「なに? ヤツにも日当以外に賞金が出るのか?」 「ああ、一昨年のダービー優勝戦で転覆した金子良昭が『同情するならカネをくれ』ってわめいたおかげで、今年度からSG優勝戦での転覆や落水事故にも6等賞金の何割かを手当てとしてもらえるって話らしいぜ?」 「なんだと!? 倉谷頭総流しで無理心中した俺だけオケラかよ!」 「そうだな、俺はきっちり松井から流してたしよ」 「くそっ! おめぇもひでぇ追い討ちしやがるな。やい倉谷! 俺の3-4 48.8倍100枚分、おめぇのその手当からよこせっ!」 「なに言ってやがる、もともとその種銭も昨日の倉谷からもらったやつだろ? 返したと思って諦めろ」  松井繁のSG初優勝決まり手が「恵まれ」という記録は、間違いなく客の記憶とともに語り継がれる。  確かに、この松井のSG初優勝は運がよかったから、と当時は言われていた。しかし、最近はやや下降気味ではあるが、運がそのまま実力に昇華し「絶対王者」と呼ばれるまでになった松井繁はいまでも記念戦線を走っている。  もし、松井繁のSG初優勝が「恵まれ」ではなかったら、果たしてここまでの選手になっていたであろうか? その後の活躍を見るとそんな気もした。 ※平成22年度(’10年度)以前の話題につき当時の名称にて表記しております ※本文中敬称略シナリオライター、演出家。親子二代のボートレース江戸川好きが高じて、一時期ボートレース関係のライターなどもしていた。現在絶賛開店休業中のボートレースサイトの扱いを思案中
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