おっさんは、全てにおいてタイミングが悪い。そりゃもう壊滅的に――patoの「おっさんは二度死ぬ<第69話>
そして暗闇の中、徳山さんはやって来た
隼人君のたてたサプライズ計画はこうだった。
徳山さんは業務の関係から必ず20時10分に店に来ていた。
それを見計らって店内の照明を暗くし、ガチャッとドアを開けた瞬間に大量のクラッカーがお出迎え、そしてハッピーバースデーソングを熱唱、そこでケーキが運ばれてくる。
ろうそくの炎を見ながら、僕が感動的なスピーチをし、それが終わると同時にろうそくを吹き消してもらい、店内の照明をつける。そこで徳山さんお得意の「夢芝居」の前奏がカラオケから流れてくる。こんな流れだ。まあ、ありふれた誕生日サプライズだ。
問題なのは、「僕の感動的なスピーチ」だが、色々と考えた結果、2回にもおよぶ定食代金1200円の建て替え、その感謝を感動的にスピーチしなくてはならないとのことだった。他にそういった具体的なエピソードを持っている人がいなかったからだ。1200円立て替えてもらったことを感動的にだ。いくらなんでも無理がある。
こうしてついに徳山さんに対するバースデーサプライズを実施する日がやってきた。
徳山さんがやってくる20時10分が近づき、店の照明を落とす。窓を塞いでいたプレハブ店舗の中は真っ暗になった。
その暗闇の中で電灯のスイッチを司る人、ケーキをスタンバイする人、いいタイミングでカラオケが始まるようにスタンバイする人、マイクを手渡す人、そして1200円借りたことを感動的にスピーチする人と、クラッカーを構える人、各員が配置についた。
8時10分になる。
「そろそろですよ」
暗闇に隼人君の声が響いた。なんだかドキドキしてきた。そしてついに、ドアが開かれた、月の明かりをバックに人影が見える。その瞬間、パーンパーンとけたたましい破裂音が鳴り響いた。クラッカーだ。
「ハッピーバースデートゥーユー」
隼人君の歌声が響く。それに合わせて徐々に常連たちが声を重ねていく。徳山さんは、そのシルエットから見るに随分と驚いているようだった。黒い影が所在なく右に左に動いている。
そんなものお構いなしにロウソクの火を灯したケーキが運ばれている。炎に照らされた節子の顔がボンヤリ闇に浮かぶ。バースデーソングが終わると僕のスピーチだ。
「遠い国では今こうしている間にも多くの命が失われています。1200円あればどれだけの命が救えるかわかりますか。それなのに僕のような下賤な者が定食を食うためだけに1200円も提供してくれた徳山さん。遠い国の命を救わずに僕を救った徳山さん。もう感謝してもしきれません」
1200円エピソードを無理やり感動的にしようとしてわけのわからないことになっている。なにやってんだ。