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子供部屋おじさんの秘密を知った僕らは、また余計なことをして――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第68話>

 昭和は過ぎ、平成も終わり、時代はもう令和。かつて権勢を誇った“おっさん”は、もういない。かといって、エアポートで自撮りを投稿したり、ちょっと気持ちを込めて長いLINEを送ったり、港区ではしゃぐことも許されない。おっさんであること自体が、逃れられない咎なのか。おっさんは一体、何回死ぬべきなのか――伝説のテキストサイト管理人patoが、その狂気の筆致と異端の文才で綴る連載、スタート! patoの「おっさんは二度死ぬ」【第68話】子供部屋おじさんと秘密の部屋  “子供部屋おじさん”という言葉がちょっとだけ流行しているようだ。  いつまでも実家を出ることなく子供部屋で暮らす成人男性のことを指すらしいが、その昔、90年代くらいだっただろうか、パラサイト・シングルという言葉が流行したことがあった。20代だとか比較的に若い世代が実家にパラサイトしている現象を指した言葉だ。  “子供部屋おじさん”はそれとは異なり、40代などの高い年齢層のおじさんを指すことが多いようだ。そう考えるとパラサイト・シングルが90年代で20代、そして20年後に子供部屋おじさんが40代、同じ人が実家にいるだけなのかもしれない。  そしてここが大きく違うのだけど、パラサイト・シングルはそうでもなかった記憶があるが、この“子供部屋おじさん”は、完全に揶揄する文脈で使われることが多い。精神的、経済的に自立できていないおじさんをバカにする意味合いが強い。  僕自身、この“子供部屋おじさん”について語ろうと思った際に、はたと気が付いたことがある。周りに“子供部屋おじさん”がいないのだ。僕自身、とうの昔に実家を出てしまっているし、友人のおっさんどもの中にも、たぶんいない。いや、もしかしたらいるかもしれないけど「お前子供部屋おじさんか?」といきなり切り出したりしないので、実際のところは分からない。ぜんぜん実感がないのだ。  そんな事情もあって“子供部屋おじさん”いなかったなあ、と思い返し、そこで一人のおっさんの顔が浮かんだ。  「いた」  当時は、そんな言葉もなかったので不思議に思わなかったけれども、今考えるとあれは確実に“子供部屋おじさん”だ。  まだ小学生くらいの頃だったと思う。我が家の近くには水産会社の廃墟みたいな場所があり、格好の遊び場になっていた。そこに捨てられていた木箱やプラスチックも秘密基地を作るのに適しており、そこに基地を作っては破壊の限りを繰り返す謎の遊びを毎日のように行っていた。  その日、僕たちはその廃墟の裏手にまわり、木箱の破片を使って地面を掘り起こしていた。何をしていたのか。ミミズを探していたのだ。  誰だったか、友人の一人が「ミミズにおしっこをかけるとチンコが腫れ上がる」という謎の噂を聞きつけ、本当にチンコが腫れるのか試してみようということになったのだ。はっきり言わせてもらうと、アホである。  しかも、友人の一人はいつでもおしっこをかけられるようにと極限まで放尿を我慢した状態でミミズを探し始め、なかなか見つからず、漏れる、漏れると連呼しながら地面を掘っていた。  それでもミミズは見つからず、諦めた僕は皆から離れて敷地の奥へ、奥へと入っていった。そこはじめっとした嫌な湿気とコケが密集する空間で、いかにもミミズがいそうな雰囲気だった。  「もう漏れる!」  遠くから友人の断末魔の悲鳴が聞こえるが、かまわず掘り進める。すると上の方から声がした。  「なあにやってんだ」  どうやら敷地の裏手には民家があったらしく、その一軒家の二階窓から声をかけられた。そこには、けっこうなおっさんがいて窓からこちらを見下ろしていた。
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ミミズでちんこを腫れさせるよりも、魅力的なおっさんを見つけた僕ら
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pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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