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「完全自殺マニュアル」鶴見済×プロ奢ラレヤーが語る、“贈与経済の今後”

「『物質的に豊かな人間が偉い』なんてのは60~70年代頃の価値観だよ」(鶴見氏)

銀行口座の残高以外の豊かさを見つけられた人間は無敵

プロ奢 「フリーになって食えるかどうか」の損得で考えた時に「食える」と答えた人は、めちゃくちゃ能力が高いか「食える」の基準が低いかのどっちかじゃないですか。後者だったら自給自足すればよくね?とか、家なんてなんでもよくね?と思ってるかもしれない。 鶴見 僕は0円で色々やることを推奨してるので、そもそも「食える」の基準は下がるよね。すごく高いところを想定してる限りは嫌なことってやめられない。 プロ奢 「そんなうまくいくはずない」とか言ってくる人って、前提として人生に求めてるものが多いんですよ。僕とか別にいい家に住みたい願望もないし池袋西口らへんでテキトーに寝てたって豊かだなーって思うから、嫌なことやる必要がないんです。毎日うまい焼き肉食べたいわけでもないし、100円の納豆巻き一本食べられればいい。 鶴見 プロ奢さんにとっての豊かな生活はどんなものなの? プロ奢 「面白い人にあって話を聞く」ことですね。これは、僕にとっての銀行口座みたいなもの。それさえできれば別にいいっすね。 鶴見 「銀行口座」以外の豊かさを見つけられたら、それは無敵だよ。たとえば戦後はみんなお金がなくてモノもなくて「お金って大事だね必要だね」ってなるのは当然だと思う。今も必要な分が足りてないなら、それは大事。  でも十分足りていてる場合でも、未だに新しい価値観がアップデートされてない。お金やモノをたくさん持ってる人が偉いっていうのはバブルまでの基準だから。もちろん否定はしないけど、60年代70年代ぐらいから価値観が更新されてない気がする。 プロ奢 まあ個人的にタワマンに価値を感じるのなら別にいいんじゃんって感じだけど、自分の所属するコミュニティのランキングのためにタワマンに住むのは馬鹿げてますよね。「嫌なことも続けろ」っていう考え方にしてもそうだけど、欠乏してた時代に採用された価値観を持ち続けていても豊かさからは遠のいていくんじゃないかなー。 鶴見 実際「嫌なこと」をして経済成長を遂げたという時代もあるし「嫌なことに耐えよう」の文化を抜けきれないっていうのもわかる。僕が育った時代は我慢を強いられることが当たり前だったし、嫌なことをやらならなきゃダメだ、っていう「がんばれ文化」だった。「巨人の星」をみんなで見て「がんばれがんばれ」って。でもそれだけじゃ幸せになれねーよって、みんなどこかでわかってるような状態。 プロ奢 しんどそうだなあ。鶴見さんはフリーになって、どれぐらいなんすか? 鶴見 もう30年ぐらい。たぶん僕らの世代が一番最初ぐらいじゃないかな。 プロ奢 へー、すげー。先駆者だ。 鶴見 80年代後半あたりからフリーのライター、編集者とかがどんどん出てきて、自分もしばらくは稼げなかったけど、その頃から「フラフラして」とか「そんなんじゃ将来食いっぱぐれるぞ」とか散々言われたよ。当時から僕は「がんばって生きろ!」って風潮にすごく反抗してたから「いざとなったら死ぬこともできるんだから楽に生きよう」っていうメッセージを込めて『完全自殺マニュアル』を書いた。 プロ奢 出口が見えるのって大切ですからね~。僕の本を買ってくれた人も、「この本を読んだその日に退職する決意をして退職届けを出した」とか感想書いてて、ウケましたね。そういう意味ではなんか僕の本と鶴見さんの「完全自殺マニュアル」は近いのかもしれない。 鶴見 僕の場合は「こんなきつい世の中生きてられるか、くそったれ」的な怒りもあったけどね(笑)。プロ奢さんはこういう生き方を選びながらも全然生きづらさを感じていないのがすごいよ。なんならリア充だよね。僕らの世代だったら「プロ奢ラレヤー」っていう職業は絶対に成り立たなかったのに。 プロ奢 ツイッターの力は大きいっすね。今はいくらでもマッチングできるんで。特にツイッターってすごいですよ。インスタグラムとかフェイスブックとも違う、スラムです。だから面白い。 鶴見 僕らが「フリー」で生きる第一世代だとしたら、プロ奢さんは「奢られ」の第一世代なのかもしれない(笑)。いずれにしても今後の“お金じゃない経済”の象徴のような存在になると思うよ。 【鶴見済(つるみ・わたる)】 フリーライター。東京大学文学部卒業。つながり作りの居場所や0円ショップ、共同の畑などを実践し、社会不適応者たちが生きやすいオルタナティブや共有経済の拡大を目指して活動している。『脱資本主義宣言』『完全自殺マニュアル』など著書多数。 【プロ奢ラレヤー】 本名、中島太一。23歳。「他人のカネで生きていく」をモットーにツイッターを介して出会ったさまざまな人に「奢られる」という活動をし、現在フォロワー約9.5万人。奢ってくれた人々との邂逅を綴った「奢ログ」を含む日々の考察を有料note「プロ奢ラレヤーのツイッターでは言えない話。」として配信中。 <取材・構成/片岡あけの 安英玉(本誌)>
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嫌なこと、全部やめても生きられる

「逃げたら負け」と思っている人々へ。"目からウロコの意識低すぎ実践哲学"


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