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酒飲みはスマホを年に3回失くす。その悪癖は他人のスマホにも…

年に3回スマホを失くす男

 そう。死ななきゃ治らないと言えば、マッチである。  ちょっと前の記事にも書いた競馬廃人のマッチの人生には、競馬と同じくらい酒が欠かせない。競馬がなくなったら死んでしまうが、酒が無くてもたぶん死んでしまう。  彼は、ある晩血まみれで帰宅し、一体何事かどこの暴漢に襲われたかと周りを騒がせ警察に駆け込んだが、へべれけになって一人で階段を転げ落ちてゆくところを捉えた監視カメラの映像を見せつけられて、より一層周囲を辟易とさせたという過去の持ち主である。  彼はほんとうによく酒を飲む。立派な会社員である上に素面だと生真面目な性格なので、昼間はしっかり働いているが、それ以外はほとんど競馬をしているか酒を飲んでいる。いや、そもそも競馬を予想するのにも酒は欠かせないので、だいたい酒を飲んでいる。飲み放題の競馬イベントの時などは、一体その身体はどうなっているんだと目を見張るほど飲む。  そんなマッチは、年に三回ぐらいスマホを新調している。酔って失くすからだ。そして、年に三回も新調しているわりに、いつ見ても画面は高確率でバリバリに割れている。酔って落とすからだ。スマホの他にも財布や眼鏡、加熱タバコの機械などあらゆるものを無くすし、忘れていく。  彼に限らず、飲み屋というのはとにかくお客の忘れ物が多い。化粧道具や充電器などの小物に始まって重要資料の入った仕事鞄やパソコンから人間の尊厳まで、閉店後の店内にはなんでもかんでも置き去られている。置き去るだけならまぁいいが、マッチの場合は酩酊して余計なものまで持って帰る。  先日、わたしのネット上での知人であるウラマツが初めて来店してくれた。一、二軒回ってからきたという彼は良い感じに酔っぱらっており、隣に座った完全に出来上がっているマッチともカラオケを歌ったりして楽しげに盛り上がっていた。  徐々に呂律の回らなくなってきたマッチが席を立つと、やがてウラマツも「もう一軒回る」と言って帰っていった。店内はがやがやしていてドリンクやフードのオーダーに追われ、我々はしばらく経ってから気が付いた。二人の座っていた席の丁度真ん中に置かれた一台のスマホに。 「どっちのスマホだ?」  翌日、SNSを開くとウラマツからメッセージが届いていた。 「俺、携帯忘れてませんでしたか?」  あのスマホは彼のだったのかと思い至ったわたしは「一台、忘れ物があったよ」と返信した。すぐに取りに行くという連絡があり、店の開店時間と共に現れたウラマツは、カウンターに置かれたスマホを愕然とした表情で見下ろしていた。 「これ……俺のじゃない」  ということは、おそらくマッチのものだろう。ウラマツは少し焦った様子で、昨日行った他の店を見てくると言って、慌ただしく店を出て行った。数時間経って、またSNSにウラマツからメッセージがあった。 「GPSで捜してみたら、俺の携帯、自由が丘にあるみたいです」  自由が丘。その地名ではっきりした。マッチがウラマツのスマホを持っている。しかし連絡を取ろうにも奴のスマホはカウンターの上。さっさと気が付いて持ってきてくれれば一番良いのだが、おそらく二日酔いで死んでいるだろう。途方に暮れながらも、どうにかこうにかマスターが彼の身内に連絡を取り付け、自由が丘に宿泊した哀れなスマホは無事にウラマツの手に戻ったのであった。
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